「ほんとに家まで来る?」
「行く。養護の先生に頼まれたから」
駅から出て、商店街のあるアーケードへ入って行く。メインストリートの買い物客でにぎやかな通りを抜け、細い道に入るとその先も道の両脇に店はあった。飲み屋ばかりが続く通りの終わりの辺りに家はあった。
「ここが俺んち」
『六郷』と書かれた表札を指す。木の両開きの大きな門があるが、そのとなりの小さなドアを開けた。
「上がってく?」
「うん」
和邇は体をかがめてドアをくぐった。
砂利敷の庭を通り玄関に着く。
引き戸を開け中に入る。茶トラの猫も一緒に玄関から入った。
「しずかだね」
「夜はうるさい。隣の飲み屋からカラオケが聞こえて来たりする」和邇を居間に通した。
「ソファ座って」電気ケトルで湯を沸かし、マグカップにティーバッグを投げ込んで紅茶をいれる。
「この子名前は」
和邇が猫を抱えてやってきた。長毛の茶トラ、デカい尻尾を意味ありげに振っている。
「隣の飲み屋の猫。勝手に入ってくる」
週に数度はやってくる隣の猫のために、仕方なしに玄関の三和土に餌と水とトイレも置いてある。
「なんて呼んでる?」
「ニャー太郎」
「オスなんだ」
「デカいからオスだろ」
和邇は猫を何度かなでてからそっと床に下ろした。
「気分は」
「いい」
「よかった。顔色もいいよ」
紅茶を淹れて、マグカップを出す。砂糖を入れてかき混ぜ一口飲んだ。
「和邇はしょっちゅう見えるの」
「あんまり。『みんな』は俺が嫌みたいで、避けられてる」
「『みんな』?」
「あの穴から出てくるわけのわかんねえ奴ら。今日六郷の背中にくっついてやってきて、壁の穴に引っ張り込もうとしてた」
「お前は追い払えるんだ」
「まあね」
「なんで?」
「わかんねーけど俺の兄ちゃんも出来る。遺伝?」
「俺はまた狙われたりすんの」
「たぶん大丈夫。見たこともそのうち忘れる。みんなそうだから」
「忘れるんだ…どのくらいで?」
「明日の朝には」ホッとする。覚えていたい記憶ではない。出来る事なら今すぐにでも忘れたかった。
「助けたお礼にキスさせて」
「散々しただろ」
「あんなのキスじゃない」
和邇に自分からキスした。温かい紅茶を飲んだ熱い口の中を探り合う。
「砂糖入りだね」
「そう。甘いほうが好き」
「親は」
「親父は新しい女の家。ばあちゃんは施設。一人っ子」母はとっくの昔に亡くなっていたが言わなかった。
「泊まっていく」
「隣の駅に帰れ。ニャー太郎で手一杯なんだよ。女呼び出してそっちに行け」
「俺のイメージ悪すぎるな。六郷の普段の相手は男?」
「男。わかっててキスしただろ。和邇とキスした事も明日の朝には忘れる?」
「もしかしたら。今日の記憶が全体的に曖昧になる」
「それなのに泊まって行きたいんだ?」
「うん。泊めて」和邇は笑って抱きついて来た。
「行く。養護の先生に頼まれたから」
駅から出て、商店街のあるアーケードへ入って行く。メインストリートの買い物客でにぎやかな通りを抜け、細い道に入るとその先も道の両脇に店はあった。飲み屋ばかりが続く通りの終わりの辺りに家はあった。
「ここが俺んち」
『六郷』と書かれた表札を指す。木の両開きの大きな門があるが、そのとなりの小さなドアを開けた。
「上がってく?」
「うん」
和邇は体をかがめてドアをくぐった。
砂利敷の庭を通り玄関に着く。
引き戸を開け中に入る。茶トラの猫も一緒に玄関から入った。
「しずかだね」
「夜はうるさい。隣の飲み屋からカラオケが聞こえて来たりする」和邇を居間に通した。
「ソファ座って」電気ケトルで湯を沸かし、マグカップにティーバッグを投げ込んで紅茶をいれる。
「この子名前は」
和邇が猫を抱えてやってきた。長毛の茶トラ、デカい尻尾を意味ありげに振っている。
「隣の飲み屋の猫。勝手に入ってくる」
週に数度はやってくる隣の猫のために、仕方なしに玄関の三和土に餌と水とトイレも置いてある。
「なんて呼んでる?」
「ニャー太郎」
「オスなんだ」
「デカいからオスだろ」
和邇は猫を何度かなでてからそっと床に下ろした。
「気分は」
「いい」
「よかった。顔色もいいよ」
紅茶を淹れて、マグカップを出す。砂糖を入れてかき混ぜ一口飲んだ。
「和邇はしょっちゅう見えるの」
「あんまり。『みんな』は俺が嫌みたいで、避けられてる」
「『みんな』?」
「あの穴から出てくるわけのわかんねえ奴ら。今日六郷の背中にくっついてやってきて、壁の穴に引っ張り込もうとしてた」
「お前は追い払えるんだ」
「まあね」
「なんで?」
「わかんねーけど俺の兄ちゃんも出来る。遺伝?」
「俺はまた狙われたりすんの」
「たぶん大丈夫。見たこともそのうち忘れる。みんなそうだから」
「忘れるんだ…どのくらいで?」
「明日の朝には」ホッとする。覚えていたい記憶ではない。出来る事なら今すぐにでも忘れたかった。
「助けたお礼にキスさせて」
「散々しただろ」
「あんなのキスじゃない」
和邇に自分からキスした。温かい紅茶を飲んだ熱い口の中を探り合う。
「砂糖入りだね」
「そう。甘いほうが好き」
「親は」
「親父は新しい女の家。ばあちゃんは施設。一人っ子」母はとっくの昔に亡くなっていたが言わなかった。
「泊まっていく」
「隣の駅に帰れ。ニャー太郎で手一杯なんだよ。女呼び出してそっちに行け」
「俺のイメージ悪すぎるな。六郷の普段の相手は男?」
「男。わかっててキスしただろ。和邇とキスした事も明日の朝には忘れる?」
「もしかしたら。今日の記憶が全体的に曖昧になる」
「それなのに泊まって行きたいんだ?」
「うん。泊めて」和邇は笑って抱きついて来た。



