和邇は学校の有名人である。
一つにはデカい。身長はおそらく185センチ以上あって、2年生では一番大きい。
髪が長く、いつ見ても強風にあおられたあとのように乱れていて、みだれ髪で顔が見えない時もあるが、雨の日は毎度ずぶ濡れで登校してきて、髪が乾くまではオールバックで顔が丸出しになる。
ジャージ姿でオールバックのレアな和邇を学校の女子はみな見に行った。
ずっとまともに顔を見たことがなく雰囲気イケメンだと思っていたが、気絶から目覚めて目の前で見た和邇新一は抜群にかっこよく、女子が騒ぐ気持ちが少しだけわかる。
体を支えてくれた腕も安定感があり、胸や太ももの感じも何かスポーツをやっているような気がした。
「春休み、ちゃんとご飯食べてた?」養護の先生が血圧を測ってくれる。
「はい」
「このあと部活はある?通学は電車?」
「ありません。電車通学です」
「保護者の方に迎えに来てもらえる?」
「あー、たぶん無理です」
ガラと保健室のドアが開いた。
「ノックしなさい」
「ハーイ」間延びした返事とともにデカい男が保健室に入って来た。
「ホームルーム終わったんで六郷くんのバッグを持って来ました」
和邇が持つ自分のバックパックはやけに小さく感じた。
「ありがとう」
「一緒に帰ろ。先生、もう六郷連れて行ってもいいですか」
「二人は家の方向は?」
「西本町」和邇が言った。
「え、俺、本町仲通り」隣の駅だ。
「和邇くん、六郷くんを家まで送れる?」
「ハーイ」また間延びをした返事をした和邇は、こちらを見て大きな口でニヤリと笑った。
「六郷って座ってるとわかんねーけど、けっこうデカいね」
「175ギリ」
「まだ伸びてる?」
昇降口から出て、正門までの道をあるく。あちらこちらでまだ帰る気配のない生徒たちが立ち止まって話している。
「もう止まった」となりを歩く和邇を見上げた。
「かわいい顔」
和邇が腰を抱き、顔を寄せて瞼辺りにキスした。
周りの人たちがぎょっとしてこちらをみるのを感じる。
「頭おかしいだろ」
騒ぎ立てる気にもなれず、肩に手をまわされたまま歩く。
「俺は六郷の命を助けたから、可愛がる権利がある」
「命?」大げさな言い方に和邇の方を見ると、今度は鼻の辺りにキスされた。
「連れて行かれそうだっただろ。俺があの穴からオマエを引っ張り上げた」
「あの穴…蜂の穴?」何億匹もの羽音がした。
「ハチじゃない」
「じゃあなんだ」立ち止まって聞く。
「災」
和邇は嬉しそうに言うと、正門を出たところで顔覗き込んで口にキスした。
「災い…?」
「そう、六郷にも見えただろ」
見えた気がしただけかもしれなかった。羽音も聞いたような気がしただけかもしれず、寒気も勘違いの可能性があった。
「わかんねー」
「かわいい」
和邇は肩を抱き、またキスして来た。
「なんで抵抗しないの」キスした上に、とんだ言い草だ。
「抵抗したほうがいいのか。これ嫌がらせ?みんなの興味を引くためにオレを利用してる?」
「…みんな?」
和邇は足元を見回してから、壁のあたりや通りの向こう側の墓所の方を見た。
「誰もいないから大丈夫」
実際周りは駅へ向かう学生だらけで、みなこちらに興味津々だ。明日にはワニくんが男といちゃつきながら帰って行ったと学校中の噂になる。
何者でもない男、和邇。
スポーツが出来るわけでも勉強が出来るわけでもない。人並み外れて背が高く、顔と髪は癖が強い。そんな和邇には女の子を強烈に惹きつける何かが、あるようだった。
強いて言うなら目つきだ。
肉食動物の目。キラキラしていて残忍で、同情のかけらもなく、美しい。
ワニの目だった。
一つにはデカい。身長はおそらく185センチ以上あって、2年生では一番大きい。
髪が長く、いつ見ても強風にあおられたあとのように乱れていて、みだれ髪で顔が見えない時もあるが、雨の日は毎度ずぶ濡れで登校してきて、髪が乾くまではオールバックで顔が丸出しになる。
ジャージ姿でオールバックのレアな和邇を学校の女子はみな見に行った。
ずっとまともに顔を見たことがなく雰囲気イケメンだと思っていたが、気絶から目覚めて目の前で見た和邇新一は抜群にかっこよく、女子が騒ぐ気持ちが少しだけわかる。
体を支えてくれた腕も安定感があり、胸や太ももの感じも何かスポーツをやっているような気がした。
「春休み、ちゃんとご飯食べてた?」養護の先生が血圧を測ってくれる。
「はい」
「このあと部活はある?通学は電車?」
「ありません。電車通学です」
「保護者の方に迎えに来てもらえる?」
「あー、たぶん無理です」
ガラと保健室のドアが開いた。
「ノックしなさい」
「ハーイ」間延びした返事とともにデカい男が保健室に入って来た。
「ホームルーム終わったんで六郷くんのバッグを持って来ました」
和邇が持つ自分のバックパックはやけに小さく感じた。
「ありがとう」
「一緒に帰ろ。先生、もう六郷連れて行ってもいいですか」
「二人は家の方向は?」
「西本町」和邇が言った。
「え、俺、本町仲通り」隣の駅だ。
「和邇くん、六郷くんを家まで送れる?」
「ハーイ」また間延びをした返事をした和邇は、こちらを見て大きな口でニヤリと笑った。
「六郷って座ってるとわかんねーけど、けっこうデカいね」
「175ギリ」
「まだ伸びてる?」
昇降口から出て、正門までの道をあるく。あちらこちらでまだ帰る気配のない生徒たちが立ち止まって話している。
「もう止まった」となりを歩く和邇を見上げた。
「かわいい顔」
和邇が腰を抱き、顔を寄せて瞼辺りにキスした。
周りの人たちがぎょっとしてこちらをみるのを感じる。
「頭おかしいだろ」
騒ぎ立てる気にもなれず、肩に手をまわされたまま歩く。
「俺は六郷の命を助けたから、可愛がる権利がある」
「命?」大げさな言い方に和邇の方を見ると、今度は鼻の辺りにキスされた。
「連れて行かれそうだっただろ。俺があの穴からオマエを引っ張り上げた」
「あの穴…蜂の穴?」何億匹もの羽音がした。
「ハチじゃない」
「じゃあなんだ」立ち止まって聞く。
「災」
和邇は嬉しそうに言うと、正門を出たところで顔覗き込んで口にキスした。
「災い…?」
「そう、六郷にも見えただろ」
見えた気がしただけかもしれなかった。羽音も聞いたような気がしただけかもしれず、寒気も勘違いの可能性があった。
「わかんねー」
「かわいい」
和邇は肩を抱き、またキスして来た。
「なんで抵抗しないの」キスした上に、とんだ言い草だ。
「抵抗したほうがいいのか。これ嫌がらせ?みんなの興味を引くためにオレを利用してる?」
「…みんな?」
和邇は足元を見回してから、壁のあたりや通りの向こう側の墓所の方を見た。
「誰もいないから大丈夫」
実際周りは駅へ向かう学生だらけで、みなこちらに興味津々だ。明日にはワニくんが男といちゃつきながら帰って行ったと学校中の噂になる。
何者でもない男、和邇。
スポーツが出来るわけでも勉強が出来るわけでもない。人並み外れて背が高く、顔と髪は癖が強い。そんな和邇には女の子を強烈に惹きつける何かが、あるようだった。
強いて言うなら目つきだ。
肉食動物の目。キラキラしていて残忍で、同情のかけらもなく、美しい。
ワニの目だった。



