「キャーッ!」
 張り叫ばれる悲鳴を聞きつけ、雅清は目の前の百足をザシュッと斬り捨ててから急いでそちらに向かった。

 見れば、ぼごんっと地中から現れたオオムカデが桃色の美しいドレスに身を包んだご令嬢に狙いを付けている。

「光焰付呪、炎走《えんそう》!」
 雅清が振り下ろす一太刀と共に、ゴウッと炎が矢の如く飛び、オオムカデの身を貫いた。

 オオムカデは「ギャギャッ!」と醜い呻きをあげてのたうつが、ジュウジュウと身を焼く橙の炎に包まれる。

 雅清はその隙に「さぁ、急いで!」と令嬢の手を取って救出し、丁度戦場に駆け戻ってきた村井に「彼女を頼む!」と避難誘導を任せた。

 そうして令嬢を任せるや否や、残る一匹のオオムカデがぼごんっと地中に戻る。
 するとうぞうぞと残っていた百足の物の怪数匹も一斉に地中に飛び込み、撤退し始めた。

 その姿に、奮闘していた聖陽軍の面々から安堵と歓喜の声があがる……が。

「どういう事だ?」
 雅清は突然の撤退に眉根を寄せ、物の怪の霊気を探り始めた。

 刹那、彼はハッと息を飲む。それと同時に、「まだだ!」と怜人が鋭く声を張り上げた。

 その表情に、いつもの朗らかさはない。蒼然と切羽詰まり、一瞥だけで「緊急事態」だと分かった。

「連中が避難所の方に移動していく!」
 この場で一番、霊気探知に長けた怜人の発言に、弛緩していた全てが一気に戻り、ピンッと太く鋭く張りつめる。

 雅清は「まさか!」と、真っ先に走り出した。
 その背に、怜人を始め枢木隊、宮地隊の面々が続く。

「どうして突然狙いを変えたんだろう?」
 おかしいよ。と、雅清の横を走り並ぶ怜人が独りごちる様に問いかけた。

 雅清は「分からん」と苦々しく答えるが。彼の頭では、すでに答えに近い推測が出ていた。

 聖陽軍を抜け、避難誘導に当たっていた柚木を狙ったオオムカデの姿で「まさか」とは思ったが。これで決定的になった。避難所の方に柚木が、《《花影が居る》》と分かったからここを捨て置き、そっちへ向かったんだ。そこに留まり、護りも手薄となった花影を喰らう為に。

 雅清はグッと奥歯を噛みしめ「兎に角急ぐぞ!」と、駆ける足を更に速めた。