とある教室の前に来た。普段、誰とも関わらない柳川くんが教室以外にいる場所。
誰もいない場所か、誰が居ても静かな場所。ひとつは私たちがいた屋上。もうひとつはここ、図書館。
私は目の前の扉をそっと開けて、中に入る。
棚の中にはたくさんの本が並んでいる。そして、奥の窓際の机でうつ伏せで寝ている柳川くんがいた。
やっぱりここだった。
「柳川くん?」
すると、もぞもぞして顔が横を向いた。
顔を覗き込んでみる。普段あんなに人を寄せ付けない柳川くんだけど、寝ている姿はすごく優しい表情だった。それにまつ毛長いなあ。
「おーい。柳川くん起きてー」
「んー、小柳?」
首にかかったままのヘッドホンが、カチャっと音を立てる。
前から目を合わせる習慣ついてから思ってたけど柳川くんって可愛いと思う。
「なんでここに小柳がいるんだ?」
「辻元先生が授業の準備手伝ってほしいって」
「あ、次、理科か」
「うん」
「わかった。すぐ行く」
そう言って柳川くんが本をまとめる。
「あの、柳川くん」
「なんだよ」
「朝のこと、ごめん」
「なにを謝ってるんだ。それだけなら行くぞ」
柳川くんは出ていこうとする。頑張れ、私。ちゃんと伝えるんだ。
「柳川くん、私のこと、心配してくれてたんだよね」
立ち止まってくれた。この半日、どうやって話すか考えてたけど、頭の中はぐちゃぐちゃだ。もうなんでもいい。
「なんであんな嘘ついたんだ」
また黙り込んでうつ向いてしまった。すると、頬に冷たいぬくもりが触れた。
「小柳。こっち向け」
私は触れられた手に動かされるまま上を向かされた。柳川くんと視線が合う。
いつもの冷ややかな視線やあの時の怒りを感じる視線は無くて、ただ瞳の奥から優しくて、力強い真っすぐな眼差しがあった。
「怖がるな」
ずっと忘れていた。久しぶりに人の声が温かいと思った。
そして、柳川くんの言葉で、すっと、心の奥の何かが溶けるのを感じた。
「中学の頃、好きなことを否定されて、それから人と関わることが苦手になったの」
「うん」
「それから何もかも隠して誰にも関わらないようにして、自分が優等生に見えるように高校から生徒会にも入って、ずっと自分を誤魔化してた」
言葉に詰まって黙り込んじゃったし、なんか、胸のあたりがじわってなってきた。
「よし」
その言葉とともに頭に触れた手がくしゃと髪をなでる。
「それだけ吐き出せたら上等。頑張ったな」
また温かい声が胸の中で広がって、何かが溶ける。
「うぅ、」
ぽろぽろと自分の頬に涙が伝い始める。
「小柳、おい。ここで泣くなよ」
柳川くんは得体の知らない物を見たように後ろめく。
「だって。柳川くんが優しいから。うぅ、」
「おい。たく、しゃーねぇな。あとで辻元先生に会ったら、口裏合わせろよ」
そうやって言って、ぎゅっと私を抱きしめる。
「えっ?!ちょっと!」
「こうしたら、少しは落ち着くだろ。じっとしてろ。深呼吸できるか?」
「すーはー」
「えらい。今なら泣いていいぞ」
そういわれたら、なんだか泣けなくなってしまって、涙が引っ込んでしまった。
「俺は優しくない。自分のことしか考えられないただの馬鹿だ。でも、小柳は違う。お前は誰かを思う優しさがある。その優しさで救われている人がいる。そのことだけは忘れないでくれ」
柳川くんの腕の力が強くなる。さっきまで暖かくて優しかった感覚が、今は抱きしめられているのに、縋られている感覚があった。
「柳川くん?」
「悪い。もう少しだけこのまま」
静かな間が時間の感覚を忘れさせて、気づけば授業の予鈴が鳴る。
「柳川くん、もう授業行かないと」
「今は分からなくていい」
「えっ?」
「俺がいる。なにがあっても」
「うん。わかった」
この言葉の意味を知ったとき、私は大きな真実を知ることになる。
誰もいない場所か、誰が居ても静かな場所。ひとつは私たちがいた屋上。もうひとつはここ、図書館。
私は目の前の扉をそっと開けて、中に入る。
棚の中にはたくさんの本が並んでいる。そして、奥の窓際の机でうつ伏せで寝ている柳川くんがいた。
やっぱりここだった。
「柳川くん?」
すると、もぞもぞして顔が横を向いた。
顔を覗き込んでみる。普段あんなに人を寄せ付けない柳川くんだけど、寝ている姿はすごく優しい表情だった。それにまつ毛長いなあ。
「おーい。柳川くん起きてー」
「んー、小柳?」
首にかかったままのヘッドホンが、カチャっと音を立てる。
前から目を合わせる習慣ついてから思ってたけど柳川くんって可愛いと思う。
「なんでここに小柳がいるんだ?」
「辻元先生が授業の準備手伝ってほしいって」
「あ、次、理科か」
「うん」
「わかった。すぐ行く」
そう言って柳川くんが本をまとめる。
「あの、柳川くん」
「なんだよ」
「朝のこと、ごめん」
「なにを謝ってるんだ。それだけなら行くぞ」
柳川くんは出ていこうとする。頑張れ、私。ちゃんと伝えるんだ。
「柳川くん、私のこと、心配してくれてたんだよね」
立ち止まってくれた。この半日、どうやって話すか考えてたけど、頭の中はぐちゃぐちゃだ。もうなんでもいい。
「なんであんな嘘ついたんだ」
また黙り込んでうつ向いてしまった。すると、頬に冷たいぬくもりが触れた。
「小柳。こっち向け」
私は触れられた手に動かされるまま上を向かされた。柳川くんと視線が合う。
いつもの冷ややかな視線やあの時の怒りを感じる視線は無くて、ただ瞳の奥から優しくて、力強い真っすぐな眼差しがあった。
「怖がるな」
ずっと忘れていた。久しぶりに人の声が温かいと思った。
そして、柳川くんの言葉で、すっと、心の奥の何かが溶けるのを感じた。
「中学の頃、好きなことを否定されて、それから人と関わることが苦手になったの」
「うん」
「それから何もかも隠して誰にも関わらないようにして、自分が優等生に見えるように高校から生徒会にも入って、ずっと自分を誤魔化してた」
言葉に詰まって黙り込んじゃったし、なんか、胸のあたりがじわってなってきた。
「よし」
その言葉とともに頭に触れた手がくしゃと髪をなでる。
「それだけ吐き出せたら上等。頑張ったな」
また温かい声が胸の中で広がって、何かが溶ける。
「うぅ、」
ぽろぽろと自分の頬に涙が伝い始める。
「小柳、おい。ここで泣くなよ」
柳川くんは得体の知らない物を見たように後ろめく。
「だって。柳川くんが優しいから。うぅ、」
「おい。たく、しゃーねぇな。あとで辻元先生に会ったら、口裏合わせろよ」
そうやって言って、ぎゅっと私を抱きしめる。
「えっ?!ちょっと!」
「こうしたら、少しは落ち着くだろ。じっとしてろ。深呼吸できるか?」
「すーはー」
「えらい。今なら泣いていいぞ」
そういわれたら、なんだか泣けなくなってしまって、涙が引っ込んでしまった。
「俺は優しくない。自分のことしか考えられないただの馬鹿だ。でも、小柳は違う。お前は誰かを思う優しさがある。その優しさで救われている人がいる。そのことだけは忘れないでくれ」
柳川くんの腕の力が強くなる。さっきまで暖かくて優しかった感覚が、今は抱きしめられているのに、縋られている感覚があった。
「柳川くん?」
「悪い。もう少しだけこのまま」
静かな間が時間の感覚を忘れさせて、気づけば授業の予鈴が鳴る。
「柳川くん、もう授業行かないと」
「今は分からなくていい」
「えっ?」
「俺がいる。なにがあっても」
「うん。わかった」
この言葉の意味を知ったとき、私は大きな真実を知ることになる。



