次の日、登校すると柳川くんが先に教室に来ていた。最近、遅かったから居ないと思ったんだけどな。
割り切って堂々としてるとは決めても、気まずいことに変わりは無かった。柳川くんは人と話したがらないから、この登校時間さえ乗り切ればみんな居て下手に接しなくて済む。お願いだから、気づかないで。そっと机に鞄をかけ、教室を出ようとした、そのとき。
「小柳だよな」
ヘッドホンをつけて本を読んでいるはずの彼が自分の名を呼んだ。やっぱり待ってたんだ。
柳川くんは本を閉じて、ヘッドホンを外す。
「柳川くんおはよー」
「優等生の顔はいいよ」
コバルトブルーの瞳が静かに自分を捉える。
「昨日のことだけどさ、俺が言ったことの意味わかる?」
「私が嘘を言ったこと?」
「ああ。小柳、俺があの本屋によくいるの知ってただろ。なんであんな嘘ついたんだ」
隠せないか。あの事伏せて、話せることだけ話そう。
「えっと、実はあまりあそこで学校の人に会いたくなくて」
「そんなことずっと前から知ってるんだよ」
ずっと前から知ってる?
「柳川くんがなんで?」
「聞いてるのはこっちだ。なんであんな嘘を小柳がつく必要があるんだよ」
柳川くんが近づいてくる。自分の後ろは教室の扉だった。必死で私は扉に飛びつく。
「おい。待てよ」
飛び出す前に腕をつかまれてしまった。
「ちょっと離してよ」
「答えろよ。これでも、一応、俺、男だから。力には自信はあるし、振りほどけるならやってみろよ」
柳川くんと目が合う。その瞬間、気づいてしまった。
「ごめん」
「っ!俺はそんな言葉を聞きたい訳じゃない。小柳は」
沈黙が続く。黙ったままの私に嫌気が差したのか、そっと腕を離した。
「もういい。生徒会だろ。行けよ」
そういってどこかへ行ってしまった。
緊張が解けて息を吐く。柳川くんのあの目も言葉も。
「由衣ちゃんと一緒だ」
きっとじゃない。柳川くんは私を心配してくれている。
でも、なんで柳川くんは私なんかを。
「あ、生徒会長。こんなところに」
振り向くと杉谷さんがいた。
「みんな集まってますよ」
「ごめんなさい。行きましょう」
昼休み、柳川くんは珍しく教室に居ない。
「由衣ちゃん、また話聞いてくれる?」
「いいよ。屋上でいい?」
「うん」
ほんとは、朝、出来なかった分の生徒会の仕事が溜まってるけど、それどころじゃない。
屋上に上がり、弁当を広げる。
「で、今日はどうしたの?」
「柳川くんのことなんだけど」
「また、柳川?なにかあった?」
「昨日、本屋で会っちゃって、咄嗟に嘘ついちゃったんだよね。その時は何もなかったんだけど、今日の朝、登校したとき話しかけられて、なんであんな嘘ついたんだって言われて」
「へぇ。それでなんて答えたの?」
「なにも答えられなかった。由衣ちゃんと一緒で私を心配してくれてたのが分かったから、余計に言葉が出なかった」
「なるほどねぇ」
由衣ちゃんは空を仰ぐ。
「まあ。これは真菜が悪いね」
「嘘ついたの、悪いと思ってるよ」
「それだけじゃないって」
「え?」
「柳川が心配してくれるの分かったのに、わかんなかったの?」
「だから何のこと?」
「それは真菜が考えることだし、私は柳川の言いたいことわかるよ。話は聞くけど真菜がほしい答えを教えるとは言ってないから。求めるだけなら、ただの子供と一緒だからね」
由衣ちゃんの言う通りだった。自分は表面の答えだけ求めていて、その先のことを考えていなかった。
「ごめん」
「そうやってずっと謝るのも真菜の悪いところだよ」
「うん」
「この前も聞いたけど、真菜はどうしたいの?」
私はただ。
「柳川くんと仲良くなりたい」
「真菜がそうしたいなら、それでいいんだよ。ちゃんと謝って話せるようになりなよ」
「うん、ありがとう。由衣ちゃん」
教室に戻っても柳川くんは居なかった。
「小柳」
辻元先生だ。いつもなら授業の準備をしているはず。
「柳川を見てないか」
「見てないです」
「あいつ、理科の係なんだが見つからなくてな。探してきてくれないか」
「わかりました」
柳川くんが居るならあそこかな。
割り切って堂々としてるとは決めても、気まずいことに変わりは無かった。柳川くんは人と話したがらないから、この登校時間さえ乗り切ればみんな居て下手に接しなくて済む。お願いだから、気づかないで。そっと机に鞄をかけ、教室を出ようとした、そのとき。
「小柳だよな」
ヘッドホンをつけて本を読んでいるはずの彼が自分の名を呼んだ。やっぱり待ってたんだ。
柳川くんは本を閉じて、ヘッドホンを外す。
「柳川くんおはよー」
「優等生の顔はいいよ」
コバルトブルーの瞳が静かに自分を捉える。
「昨日のことだけどさ、俺が言ったことの意味わかる?」
「私が嘘を言ったこと?」
「ああ。小柳、俺があの本屋によくいるの知ってただろ。なんであんな嘘ついたんだ」
隠せないか。あの事伏せて、話せることだけ話そう。
「えっと、実はあまりあそこで学校の人に会いたくなくて」
「そんなことずっと前から知ってるんだよ」
ずっと前から知ってる?
「柳川くんがなんで?」
「聞いてるのはこっちだ。なんであんな嘘を小柳がつく必要があるんだよ」
柳川くんが近づいてくる。自分の後ろは教室の扉だった。必死で私は扉に飛びつく。
「おい。待てよ」
飛び出す前に腕をつかまれてしまった。
「ちょっと離してよ」
「答えろよ。これでも、一応、俺、男だから。力には自信はあるし、振りほどけるならやってみろよ」
柳川くんと目が合う。その瞬間、気づいてしまった。
「ごめん」
「っ!俺はそんな言葉を聞きたい訳じゃない。小柳は」
沈黙が続く。黙ったままの私に嫌気が差したのか、そっと腕を離した。
「もういい。生徒会だろ。行けよ」
そういってどこかへ行ってしまった。
緊張が解けて息を吐く。柳川くんのあの目も言葉も。
「由衣ちゃんと一緒だ」
きっとじゃない。柳川くんは私を心配してくれている。
でも、なんで柳川くんは私なんかを。
「あ、生徒会長。こんなところに」
振り向くと杉谷さんがいた。
「みんな集まってますよ」
「ごめんなさい。行きましょう」
昼休み、柳川くんは珍しく教室に居ない。
「由衣ちゃん、また話聞いてくれる?」
「いいよ。屋上でいい?」
「うん」
ほんとは、朝、出来なかった分の生徒会の仕事が溜まってるけど、それどころじゃない。
屋上に上がり、弁当を広げる。
「で、今日はどうしたの?」
「柳川くんのことなんだけど」
「また、柳川?なにかあった?」
「昨日、本屋で会っちゃって、咄嗟に嘘ついちゃったんだよね。その時は何もなかったんだけど、今日の朝、登校したとき話しかけられて、なんであんな嘘ついたんだって言われて」
「へぇ。それでなんて答えたの?」
「なにも答えられなかった。由衣ちゃんと一緒で私を心配してくれてたのが分かったから、余計に言葉が出なかった」
「なるほどねぇ」
由衣ちゃんは空を仰ぐ。
「まあ。これは真菜が悪いね」
「嘘ついたの、悪いと思ってるよ」
「それだけじゃないって」
「え?」
「柳川が心配してくれるの分かったのに、わかんなかったの?」
「だから何のこと?」
「それは真菜が考えることだし、私は柳川の言いたいことわかるよ。話は聞くけど真菜がほしい答えを教えるとは言ってないから。求めるだけなら、ただの子供と一緒だからね」
由衣ちゃんの言う通りだった。自分は表面の答えだけ求めていて、その先のことを考えていなかった。
「ごめん」
「そうやってずっと謝るのも真菜の悪いところだよ」
「うん」
「この前も聞いたけど、真菜はどうしたいの?」
私はただ。
「柳川くんと仲良くなりたい」
「真菜がそうしたいなら、それでいいんだよ。ちゃんと謝って話せるようになりなよ」
「うん、ありがとう。由衣ちゃん」
教室に戻っても柳川くんは居なかった。
「小柳」
辻元先生だ。いつもなら授業の準備をしているはず。
「柳川を見てないか」
「見てないです」
「あいつ、理科の係なんだが見つからなくてな。探してきてくれないか」
「わかりました」
柳川くんが居るならあそこかな。



