君の隣、夜明けの歌を

六月の中頃、梅雨明けが天気予報で発表され、例年より早めの夏が来た。雨で延期になっていた体育祭の準備で、生徒会は大忙しだ。
「杉谷さん、この備品が足りているか、体育館倉庫まで確認してきて。部活予算の追加申請は、こっちのファイルに固めておいてもらえたら、後で確認するから」
「生徒会長、各学年からプログラムの候補の書類が提出されています」
「先生への確認ね。先に見せて。こっちの書類は副会長が戻ってきたら確認頼んで」
そして今日もあっという間に空は茜色になって下校時間になる。
「みんなおつかれさま」
学校を出て、茜と水色のグラデーションの空の下を歩く。下校時間まで体育祭の仕事しかできなかったな。明日、いつもより早めに登校してやれる分だけ進めて、また放課後に頑張ることになりそうだ。
商店街に通りかかって、本屋が見えた。あの作家さんの新刊あるかな。発売日は昨日だった気がするから、運が良ければありそう。無かったら、週末、ショッピングモールに行こう。
そう決めて本屋に入る。新しい本の紙の匂いが鼻をくすぐる。気になる本も沢山あるが、学校の近くだから、目当ての本を見つけたら、誰かに出会う前に早く帰りたい。
早歩きで奥にある新刊のコーナーに直行する。
えっと、ここら辺にあるはずだけど。作者順で本を探す。棚の端っこにあった。あったけど、本がある場所が高い。台探してこようかな。
「この本ですか?」
声と同時に後ろから手が伸びてきて、本を取ってくれた。
「はい、ありがとうございます」
本を取ってくれたのは柳川くんだった。
やばい。他の人に見つかることに比べたらよかったけど、よりによって柳川君に見つかるなんて。
学校の外で見つかったと思ったら、緊張する。
「小柳じゃん。珍しいね、こんなところで」
とにかく動揺、隠さなきゃ。
「学校の外で会うなんて思わなかったよ」
「ダウト」
「え?」
ダウトって嘘って意味だよね?
「ほら。本、買うんだろ。俺は帰るから」
取った本を自分に渡すと、柳川くんはほんとに帰ってしまった。
その夜学校の課題が早く終わったので、少しだけ本を読むことにした。ずっと楽しみにしてい小説だったから、あっという間に読み終わってしまった。
そして思い浮かんだのは、あの言葉。
柳川くんはなんで、ダウトって言ったんだろう。
嘘、学校の外で会うと思ってなかったって言葉がダウト。
もしかして、たまにあの本屋に自分がいるの知ってたとか。
そうだとしたら、当たり前だよね。柳川くん、よくあの本屋いるし。
普通に気まずいかも。明日、どんな顔して登校すればいいんだろう。
すると、スマホのタイマーが鳴った。
「あ、時間」
今日は配信の日だから、勉強や読書で時間を忘れないようにタイマーをつけていた。
マイク機材とパソコンを移動させて、屋根裏部屋を配信部屋に変える。
「準備よし」
今日も待機の数に一の数字がある。この待っていてくれる人がいる心強さが嬉しい。
配信開始をクリックする。
「こんばんはー!」
実は数日前にレコーディングを詰めて、久しぶりに歌みたを投稿していた。
最近、再生回数も伸びてるから、投稿頻度を上げられるように歌を覚える時間を登下校、勉強を夜や学校の休み時間に分けている。
その成果か、歌える曲が増えて、歌える時間が今まで以上に楽しかった。
何曲か歌った後、いつも動かないコメント欄が動いた。
『ソラの歌に救われている。ありがとう』
アオさんだ。いつも挨拶とか曲の感想とかなのに珍しいコメントだった。
そうだよね。楽しいことや嬉しいことだけじゃない。自分だけじゃない。悩んでばっかいられないよね。
しかも明日を頑張る元気を自分が分けられているんだもん。
「こちらこそ、見つけてくれてありがとう」