フェンス際に、人影があった。
 
 身長は、わたしより高いくらい。この高校の制服を身にまとっている男子生徒。

 わたしの方に背を向け、身を乗り出している。

 制服のシャツが風に揺れる。
 靴の先が宙を切って、今にも踏み出してしまいそうだった。

 雨に打たれ、それに抗うことなくどこか遠くを見つめている。

 フェンスを握る拳は、小刻みに震えていた。

 心臓が跳ねた。

「あ、あのっ……!」

 気がついたら、小さな声が口からこぼれていた。
 髪に、制服に雨が当たるのが分かる。けど気にしていられない。


 びくり、と肩がはねたのを見て、驚かせちゃったかな、と反省する。


 でも必死だった。


 彼はゆっくり、靴をコンクリートの地面に置いた。
 コツン、という音が静かに響いて、その音にほっと安堵した。

 手はまだフェンスを掴んだまま、離さない。
 顔がゆっくりとわたしの方を向いた。
 
 何か言わなきゃ、と思うほど話題が全く思いつかない。


「あのっ、そ、その……」

 彼の背景に映る灰色の雲。
 吹きつける風と、雨。

 彼の灰色とも青色とも言えない、嘘偽りのない瞳が、わたしを射抜く。
 その瞳があまりにも綺麗で、まっすぐで。

 そんな綺麗な瞳を持つこの人には、どんな世界が見えているのだろう。
 わたしが彼に声をかけたとき、彼は何を考えていたのだろうか。

 なんてことない、ありきたりな質問だった。


「こんなところで、何してたんですか……?」