世界でいちばん優しい嘘を、嘘つきの君に贈りたい



 白色の空が、夕焼けに染まっている。
 赤くなった顔は夕焼けのせいだろうか。それとも……。

「……ね、昴」

 名前を呼ばれて、胸の奥がふっと熱くなる。
 それは初めて聞く、彼の口から出たわたしの名前。
 呼ばれるのが嫌で仕方なかったのに、彼に呼ばれるとすごく嬉しい。

「俺さ、昴に会えてなかったら、たぶん、どっかで止まったままだったと思う。だから……いてくれて、ありがと」

 彼は照れくさそうに目をそらしながらも、繋いだ手をぎゅっと強く握った。

「だから、もうちょっとだけ、このまま隣にいて」

「……うん」

 肩が少し触れて、指先が震えて、心がそっと寄り添った。

「ねえ、朔くん」

 その瞬間、彼の肩がびくりと揺れる。
 顔を向けた彼は、夕焼けの光の中で、少しだけ照れて笑っていた。

「……今の、もう一回言って」

「やだ」

 そう返すと、彼はふふっと笑って、「じゃあまた言わせる」と小さく呟いた。

 茜色の空の下で、わたしたちはただ静かに並んでいた。

 夕陽が沈むその先に、まだ見ぬ明日が続いている。
 たとえ怖くても、きっとわたしたちは、大丈夫。

 言葉はもういらなかった。



 だって今、ちゃんと――

 

 繋いだ手が、たしかにそこにあったから。