世界でいちばん優しい嘘を、嘘つきの君に贈りたい

 しばらくして、彼が落ち着いたころ。
 彼は少し恥ずかしそうに「ありがと」とわたしに呟いた。
 

「わたしこそありがとね、聞かせてくれて」  


 ニコッと微笑むと、広瀬くんはわたしと目を合わせずに「うん」と答えた。
 泣いた後の顔を見られたくないのか、わたしに顔を向けようとしない。

 手は繋がれたまま、彼がポツリと話しだす。

「最初、霜月を見たとき、俺と似てるなって思った。それと同時に、俺とは同じになってほしくないって、そう思った」

 絞り出すようなその言葉に思わず息をのむ。
 
「そう思ううちに、好きになってた」

 嘘偽りのない、真っすぐな言葉。
 鼓動が早くなるのを感じる。トクトクと心臓が鳴りだした。 

「でも、まだ怖い……。親に何か言われるかもしれないし、それで霜月を傷つけたらやだ。だから、ごめ、」

「それでもいい!」

 言葉の裏にある過去が、今も彼を、彼の想いを苦しめている。
 その事実に胸が痛くなって、わたしは彼の言葉を思わず遮った。

 思わず叫ぶように声が出たわたしに、広瀬くんがハッとしたように目を見開いた。

「……それでも、わたしは広瀬くんのそばにいたい。わたしが決めたことだよ」

 わたしの言葉に、彼は口を開きかけて、でも何も言えずにまた口を閉じた。
 そしてゆっくりと、繋いだ手に力をこめる。

「……強いね、霜月は」

 弱々しく笑うその顔に、わたしは首をふった。

「ちがうよ。わたしも怖い。でも、広瀬くんのこと、好きだから。怖くても、逃げたくない」

 彼がやっと、わたしを見た。
 少し赤くなった目。濡れた睫毛。
 
 泣いた顔を見られたくなくて、顔を背けてたはずの彼が、ちゃんとわたしの目を見てくれた。

 わたしの胸の奥が、じんわりと温かくなる。

「……ほんとに、変なやつ」

 そう呟いて、彼はやっと少し笑った。その笑顔が嬉しくて、わたしもつられて笑ってしまった。

 この手を離さないでいたい。そう思った。