世界でいちばん優しい嘘を、嘘つきの君に贈りたい

 その日は全く眠れなかった。学校に行くのも辛かった。でも行くという選択をせざるを得なかった。
 だからまあ、学校(ここ)にいるのだけれど。

 ちょうど昨日、親が帰ってきて、最近の学校の様子を尋ねられたのだ。
 「普通だよ」と曖昧なわたしの返事。
 
 だって、親に心配かけさせるわけにはいかない。
 もともと仕事で忙しいのに、心配事を増やすわけにはいかない……。

 まあ、本当のことを言ったところで心配してくれるかと言われるとわからないけど、お姉ちゃんは黙っていないだろう。
 お姉ちゃんには十分助けられてしまっているから、これ以上甘えるわけにはいかないんだけどなあ……。

 あくびをかみ殺して、わたしは目をこする。
 遅くまで勉強をしていたせいか、すごく眠い。今日はしっかり寝なきゃ。
 それこそ心配されてしまう。

 放課後になって、わたしはひとりになるために屋上へ向かう。
 いつの間にかこれは習慣になっていて、自然と足がそちらに向かっていた。

 屋上は、心地いい。
 誰も知らない「わたし」でいることができる。「いい子」でいなくていい、たった一つの場所。

 今日は、眠いのが影響したのか授業中もぼんやりとしたままで、先生に指名されたものの答えることができなかった。

 あの時のクラスメイトの視線。
 何度も見てきた「できるはずでしょ?」という期待(プレッシャー)の目。

 「霜月なら解けるだろ。学級長なんだから授業にはしっかり参加しろ」という先生の視線。
 
 なにを言いたいのかわからない、広瀬くんの貫くような視線。

 わたしにだって解けない問題はあるよ。期待しないでよ。怖いよ。怖いよ……。



「どーした」


 
 そう言ってわたしの目の前に現れたのは……震える手を掴んだのは、紛れもない広瀬くんだった。