「……独りになんかさせねーよ」
あまり使わなさそうな、強気な言葉。
気づけば、わたしの頭にそっと手が触れていた。
温度が、じんわりと伝わってくる。わたしの涙を、ちゃんと受け止めてくれるあたたかさだった。
もう、言葉はいらなかった。
振り向いて、ぐしゃぐしゃのままの顔で、彼を見上げた。
涙で滲んだ視界の中でも、彼の顔ははっきり見えた。
雨の匂いと、彼の匂い。
後ろで小さくつぶやいたのが聞こえた。いつも通りの、どこか申し訳なさそうな、悔しそうな声音で、ぽつりと言った。
「でも、ごめんね」
その意味を理解したとき、スッと体が冷えるのを感じた。
この恋は叶わないと分かりきっていたことだった。それよりもショックだったのは、広瀬くんの口にごめんと謝らせてしまったことだ。
彼にこんなことを言わせてしまったのはわたし。彼が謝る必要はないのに。
全部がごちゃごちゃになって、それが涙へと変わっていく。
ごめんね、それはこっちのセリフだよ。
困らせてごめん。こんなに弱い自分でごめんね。
わたしは静かに立ちあがって、溢れる涙を止めることなく、その場を去った。
あのさあ、広瀬くん。
わたしが気づかないとでも思ってるのかな。
ねえ、わたし気づいてるよ。
どうしてあなたがあんな悔しそうな顔をしたのか、意味は分からなくても、あんな嘘なんてすぐにわかるよ。
教えてよ。あなたの心を。
聞かせてよ。あなたの本音を。
嘘なんかで、わたしを騙さないでよ。自分を騙しているのと一緒だよ?
一番傷ついているのは、あなた自身なんだから。
それをわたしに教えてくれたのは、あなたでしょう?
