帰りにふと、屋上へつながる階段の前を通って、足を止めた。

 屋上は普段、施錠されている。
 先生に頼めば開けてくれるということも聞いたことはあるけれど、誰かが屋上へ行った、といううわさは聞かない。

 みんなそれを知っているからなのか、屋上の階段はあまり知られていない。屋上へはいけないけど、その手前ならセーフということ。

 そのため、一人になりたいときや、静かな場所を求めているときにはぴったりの場所だ。

 進級してから初めての屋上前。
 
 ひんやりとした空気に包まれた階段を上ると……。


「あれ……?」


 黄土色の南京錠が、固く閉まっているはずの南京錠が外れている。
 階段と屋上を隔てる大きくて重そうな扉が、少しだけ開いていた。

 数段しかない階段を上って、扉の近くへ行く。

 ドアの四角く切り取られた磨りガラス。
 
 ガラスの向こうでは、雨が降っている。
 磨りガラスにもたくさんの雨粒がついていた。

 わたしはそのドアをゆっくりと押し開ける。
 思っていたよりも軽くて、ギギギ、と音がした。

 そしてそれと同時に、雨がわたしの身体に吹き付けて、一瞬で体が冷たくなった。