「あ、もう授業始まっちゃうよ」

 予鈴が鳴って、藍ちゃんと一緒に駆け足で教室に戻った。
 つい夢中になって話していたら、いつの間にかこんな時間だった。

 教室に戻るとほとんどの人が教科書などの準備をしていて、ギリギリセーフ。

 授業が始まる数分前に先生が教室に入ってきて、一気にシンと静まり返った。
 すぐに授業が始まって、わたしは目の前のノートに集中する。
 
 広瀬くんは今日も寝ていた。
 先生は何度か起こしていたけれど、途中から諦めているようだった。


 授業が終わると、今日は下校だ。
 今日からお母さんもお父さんも家に帰ってくるので、少しは自分の時間を取れるだろうか。
 
 最近あまり寝れていなかったので、今日は早く寝ようと心に決めた。



「さようならー」

「また明日―」

 

 普段だったらしばらく教室に残っているけれど、今日は早く家に帰りたかった。
 少しでも多く自分の時間を作りたかった。

 だから、広瀬くんが先生とわたしのことを話していたなんて、知る由もなかった。


「せんせー、いつも霜月にばっかり仕事やらせすぎてません? ちょっとは考えてあげてくださいよ」

「確かにそうかもな……。俺がいけなかったよ。お前、よく見てるなあ」

「まぁ、放っとけないんで」

 
 彼の顔がどこか寂し気に笑う。
 緑色に染まった桜の葉っぱが、ざわざわと揺れた。