「おーい、広瀬。起きろー」

 午前中にもかかわらず、ぐっすりと眠っている広瀬くんの近くに行き、先生はあきれたように呼びかけている。

 睡眠不足なのだろうか。

 ウトウトしている感じではなく、あまりにもしっかり寝ているので心配になってくる。
 
 やっとのことで起きた広瀬くんは、目をこすって何度か瞬きを繰り返していた。
 まだ少し寝ぼけているのか、ぼーっとしたまま動かない。

 先生が教卓の前に戻って授業を再開すると、彼はゆっくりと顔を上げて、

「どんくらい寝てた……?」

 と、眠そうに尋ねてきた。
 わたしはそれと同じように小さな声でこそっと返す。

「二時間くらい」

 それを聞いた広瀬くんは、ふわあと呑気にあくびして頬杖をついた。
 
「寝れてないの?」

「うーん、まあそんなとこ」

 不眠症、という言葉が頭の中を駆け巡る。
 あまりその言葉については知らないけれど、寝ようとしても寝れなかったり、途中で何度も目を覚ましてしまったり、という症状だったっけ。
 
 寝れても疲れが取れなかったり、熟睡できないだとか、そんな症状もあるらしいけれど。

 曖昧にはぐらかされて、わたしは結局本当のことを知らないまま、この時間を過ごすことになった。
 
 広瀬くんが寝ている間は、先生もずっと困ったような顔をして、クラスメイトは「いつものことだから」って言って特に気に留めないで。

 広瀬くんは言いたくないんだと思う。
 けどなにも聞かずに、ただ黙って見ているのが優しさなのか。

 きっと違う。

 それではただの「傍観者」だ。
 
 でも無理に聞くことも、優しさではない。

 だから……いつか、あなたの口で聞かせてね。