今日も、学校に行くのは怖かった。
 クラスメイトのこともそうだけれど、藍ちゃんと顔を合わせるのが、すごく怖かった。
 
 あの時、わたしもいけなかった。
 藍ちゃんに嫌われてしまったかもしれない。
 わたしを心配してくれたのに対して、藍ちゃんを傷つけるような言葉を言ってしまったから。

 朝、いつもよりも少し遅く家を出たので、小走りで学校まで来た。
 するとちょうど下駄箱で藍ちゃんに鉢合わせてしまって、思わず目が合う。

 藍ちゃんは悲しそうな、困ったような顔をして、そのまま静かに、わたしに背中を向けた。

 このままでは、ずっとわたしが逃げ続けていることになる。
 わたしから藍ちゃんにぶつからなきゃ。それで「ごめん」って言うんだ。

 ひとりで先に行ってしまう藍ちゃんの背中をただ見送るのは、違う。
 このままあの時のことを先延ばしにしちゃだめだ。

 わたしはとっさに声をかけた。

「お、おはよう!」

 なんの変哲もない、朝の挨拶かもしれない。
 けれど今のわたしにはその一言を言うだけですごく緊張していた。
 あいさつは目を合わせてするものだというけれど、藍ちゃんの反応が怖くて思わず下を向いてしまった。

 藍ちゃんが立ち止まったようだった。
 廊下に響く足音の数が一つ減ったから、恐らくそうだろう。

「おはよ、昴」

 その言葉が耳に届いた瞬間、わたしは一気に顔を上げた。
 そこには、数日前と同じような笑顔をみせた藍ちゃんがいた。

 嫌われているわけじゃないとわかって、何かつっかかっていたものが取れた気がした。
 会話とも言えない会話だけれど、久しぶりにわたしに向けられた言葉を聞けて、すごく嬉しかった。