放課後の静けさに包まれた校舎の階段を上って、わたしのクラスに向かう。
 プリントにざっと目を通すと、どうやら国語のプリントらしかった。
 もともと担任の先生は国語科で、わたしたちのクラスの国語を持っているから、当たり前と言えば当たり前だけど。

 教室まであと一歩というところで、プリントが一枚舞った。
 空いている窓から吹きつける風のせいだ。

 わたしはかがんでそれを拾い上げる。
 そのプリントはさっき見たプリントとは違くて、なにも印刷されていない。

 あれ……? 印刷ミス……?

 真っ白なA4の紙。
 ただただ広いまっさらなコピー用紙。

 他のプリントも確認すると、ちょうど半分ほど真っ白なプリントがあった。
 どうやら印刷ミスではないらしい。この真っ白で広すぎるプリントにも、しっかり理由があるのだろうか。

 何に使うんだろう……?

 もう一つの、一番最初に確認したプリントを見れば、その答えはすぐにわかった。



 「あなたは真っ白な紙があったら、それを何色(なにいろ)で塗りますか」



 なるほど、とわたしは手を打つ。
 こういうのは嫌いじゃない。

 答えが人の数だけあって、正解はない。

 わたしだったら何色で塗るのだろう、と少し考えてみる。

 好きな色で塗ってもいいかもしれない。一色だけ、と書かれていないのなら、虹色で塗ることも可能だ。
 
 でも、すぐには思い浮かばなかった。

 この広すぎる、この嘘がつけない真っ白な紙に、わたしは色を乗せる自信がない。

 

 わたしはそっと先生の机に置いた。

 優しすぎる春の風に飛ばされないように、近くに置いてあったボールペンを上に置いて。