わたしが泣き止むまでずっと傍にいてくれて、その間、彼がここを離れることはなかった。
 何も言わずにわたしのとなりにいてくれる彼の優しさが、すごく心に沁みた。


 涙が止まると急に恥ずかしくなって、まともに広瀬くんの顔を見ることができない。
 自分でも顔が赤くなっているのを自覚しつつ、下を向いたまま「ありがと」と小さく囁いた。
 
 その言葉はすぐに風に流されて溶けていく。
 それにもかかわらず、しっかりと聞き取ったらしい彼は「うん」と笑って見せた。

 涙はすっかり渇いていて、わたしの瞳は目の前の彼と、その後ろの綺麗な空を、ただただ映し続けていた。
 
 キラキラと眩しいほどに輝く空は、こんな近くにあったのか。
 美しい。この透明な
 思わず目を細めて、わたしはまた静かに涙を流す。

 わたしはその空を掴むように手をのばして……空を切った手を胸の前に当てる。
 
 ここにある。わたしの想いは、わたしの世界は、ここにある。

 遠いところまでいかなくても、ここで美しい世界は見れる。

 となりにいる彼を見ると、ふっと目が合った。
 いつになく優しく微笑んだ彼は、空と同じように明るく照らされていた。
 

 


 どれくらい時間がたったのだろうか。しばらく空を見ていた気がする。
 
「帰ろうか」

 彼が静かにそう言って、わたしに手を差し出してきた。
 そっと手を取ると、そこから温もりが伝わってくる。

 それだけのことなのに、まだ何も変わっていないのに、世界が少しだけ優しくなった気がした。