影がわたしにかぶった。
 さっと周りが暗くなって、彼が目の前にしゃがんだのだと、時間をかけて理解した。


「だいじょうぶ……」

「違うでしょ」


 子供を叱るように、小さな声でわたしに言った。
 彼の優しさが痛くて、苦しかった。
 けど、それに何度も救われた。その数はもう数えきれないほどで、いつもわたしを支えてくれた。


「……じゃ、ない」

「うん」


 その一言は、わたしの涙腺を緩めるのに十分な言葉だった。
 その言葉が、全てを受け止めてくれる気がしたから。
 
 わたしは広瀬くんの胸に顔を預けて、ひたすら泣きじゃくった。

 この時が、自分の殻を破った瞬間だったのかもしれない。
 
 空は灰色なんかじゃなくて、清々しいほどに透き通った白だった。
 彼と一緒にいるだけで、こんなにも世界が違く見える。
 
 世界はこんなに明るかったんだね。空はこんな色をしていたんだ。

 それを、彼が教えてくれたんだよ。
 


 ねえ、広瀬くん。謝らないといけないことがあるんだ。


 本当はもっと前に気づいてた。
 けど、まだその気持ちを肯定することはできなかった。
 
 だけど、今になって気づいた。

 わたしと一緒にいてくれる……それだけでこんなにも嬉しくなっちゃうんだ。
 いつだって、わたしの心を見透かしたかのように、颯爽と現れて助けてくれる。
 
 広瀬くんが好き。きっと、そういうことだ。


 ……ごめんね。

 気づいちゃったこの気持ちは、もう止められそうにないよ。


 あなたが助けを求めているとき、一番に寄り添ってあげるから。
 
 少しの間でも、となりにいることは許してくれますか?