その日の朝、あまり寝れなくてお姉ちゃんよりも早くに目を覚ました。
 朝にはいつも、お姉ちゃんのよく聞く音楽が流れてくるはずなんだけど、今日はそれがなかった。

 わたしたちの部屋を跨ぐ無音の廊下がなんだか寂しく感じられたのは気のせいだろうか。

 あまり元気がないわたしを見て、お姉ちゃんには体調をすごく心配されたけど、さすがに迷惑をかけるわけにはいかなくて「大丈夫」と笑って家を出てきた。

 朝、学校について教室に入ると、一気にクラスメイトの視線が集まった。
 今までもそうだったのかもしれないけど、昨日の言葉を聞いてからは、余計に視線というものに敏感になってしまった。

 みんなが笑顔を浮かべている。わたしに向かって「おはよう」と言ってくる。
 
 その裏に「便利屋」という評価があると考えると、それだけで気分が悪くなりそうだった。
 みんな偽っている。わたしだけじゃない。

 嫌われないように接しているのも、きっとわたしだけじゃない。

「おはよう」

 あいさつをされたらあいさつを返す。
 それがすっかり当たり前になってしまっていたわたしは、やっぱり今日もなにか変わることはなかった。

 

 わたしが席に着いて読書をしていると、前のドアが開いて誰かが入ってきた。
 
「おはよ~!」

 明るい声が教室全体に響き、みんながそのあいさつに返す。
 
「藍ちゃん、今日遅かったねえ」
「あはは、寝坊しちゃった~」

 藍ちゃん……。
 いつもは、教室に入ってきたら真っすぐわたしのところにきてあいさつをしてくれたのに。
 今日はそれがなかった。昨日の放課後のこと、やはり気にしているのだろうか。

 こんなことは初めてで、遠くの方で友達と話す藍ちゃんから、そっと目を逸らしたのだった。