けど、広瀬くんは話を切り替えるように、缶のプルタブを開ける。
 
 プシュッという音が、静かな公園にやけに大きく響いた。

「うわ、ガチで久しぶりだわー……。これ何円? 払うわ」

「お金なんていらないよ。わたしがただ勝手に買ってきただけなんだから」

 彼はわたしの言うことを聞かず、自分の財布を取り出して五百円玉をわたしの手に握らせた。

「いらないって言ったじゃん! こんなにかかってないよ!」

「そーいうのはありがたく受け取っておけばいーの」

 学校にいるときみたいな意地悪な顔をして、ケラケラと笑った。
 やっぱり彼の方が一枚上手だ。広瀬くんには敵わない。

 彼は最後の一押し、とばかりに付け足した。

「これは俺が勝手にあげただけだから」

 そう言われてしまうと、何も言い返すことができなかった。

「なに、俺のお金心配してる? こう見えてもお金だけは無駄にあるから気にしないでいーよ?」

 彼の声はふざけた調子だったけれど、その奥に、ふっと影が差しているような気がした。

 わたしは、握らされた五百円玉をそっとポケットにしまう。

 ありがとう、なんて言葉じゃ足りない。
 その代わりに、ただ黙って隣に座った。

 言葉がなくても、ちゃんと伝わる気がした。



 今日の彼は、やっぱりどこか無理をしているような気がする。
 普段見ている笑顔と同じはずなのに、その裏に疲れが見える。
 
「俺は大丈夫だよ。心配かけちゃったかな」

 帰り際、彼はわたしの心中を察したのか、いつもの笑顔で、そう言って微笑んだ。

 声は軽いのに、なぜか胸の奥がざわつく。きっと、彼の本音はそこになかった。