疲れ切った一日が、「さようなら」の言葉で締めくくられる。

 クラスメイトが教室を飛び出して、放課後の予定を話している。
 
 わたしもその中に混ざって帰りたかった。

 けれど今日は、これからまだやることがある。
 疲れた日に限ってやらなければいけないことがあるなんて、今日は本当についてない。

 月曜日のはずなのに、気分は金曜日だ。

「霜月、居残りさせてすまないな。明日の授業で使う予定のプリントを運んでもらいたかったんだ」

 いえ、と小さな声で言ってから、プリントを準備している先生に顔を向ける。

「大丈夫です、この後予定もないので」

「そうか。そりゃ助かるな」

 慣れた手つきで二種類のプリントをまとめて束にし、わたしに手渡す。
 プリント自体はそんなに重くない。
 けれど、その後に続く言葉を想像して、思わずプリントを握りしめた。

「いやあ、よかった。霜月が学級長で助かったよ。今回もありがとなぁ」

 こういうとき、どうやって返すのが正解かわからなくて、「そうですか」と小さくつぶやくことしかできない。
 
 先生からの期待が、重い。
 ずしり、と見えない荷物を背負ったような、そんな感じ。
 
 ただわたしが学級長に推薦で選ばれて、たまたま予定がない日に手伝いを頼まれて、たった、それだけのことなのに。

 なんで先生は、クラスメイトは、こんなにわたしに期待するんだろう。

 わたしの表情が曇ったのが先生もわかったのか、心配そうにわたしを見た。

「霜月も無理はするなよ。悩みかなんかあったら先生に相談してくれてもいいからな」

 先生の顔は真剣で、本当に心配してくれていることが分かった。
 
 先生に相談できたら、そりゃあラクになるだろう。
 
 相談したら「つらかったな」「気づけなくてごめんな」って言われるに違いない。

 でもわたしは同調してほしいわけでも、謝ってほしいわけでもない。

 わたしが望んでいるのはそんな言葉じゃない。

 ただ自分が判断してこうやって手伝っているのだから、謝られても困るだけだ。

 わたしは先生を安心させるように目を細めて、

「大丈夫です。これ、先生の机に運んでおきますね」

 とひとこと言って、わたしは先生の返事も聞かずに、足早のその場を去った。