教室の掃除が一通り終わった後、荷物を持って屋上へ足を運んでいた。
 お昼休みは毎日広瀬くんがいるけれど、放課後はあまり来ないらしく、姿を見かけたのは数回だ。

 たまに教室に残っているときもあるけれど、最近はそれすらも見なかった。

 HRが終わるとすぐにカバンを持って教室を出ていっているのだろうか。
 いつも、わたしが帰る前にとなりを見ても、いつの間にかいなくなっているのだ。

 

 すっかり第二の居場所となってしまった屋上。
 先生にバレてしまえば、校則違反となって怒られるだろう。いや……怒られるだけでは済まされないかもしれない。

 それでも、わたしはあの場所が大好きだ。
 放課後の喧騒も届かない、風と車の走る音だけが聞こえるあの場所が。


 屋上へと続く階段を上る。
 今日も風の音だけが響いていた。
 いつも通り。静かで、誰もいなくて、誰にも見られない――秘密基地。

 でも、ふと。
 ほんの一瞬だけ、「誰かいないかな」なんて思ってしまった。
 たとえば……広瀬くん、とか。

 いないと分かってるのに。
 あのへらっとした笑い顔が、なぜか浮かんでくる。

「……バカみたい」

 つぶやいた声は、風に紛れて消えていった。

 ホントだよ、バカだなあ、わたし。
 結局一人だよ。そんなことわかってるのに、望んでしまう。
 
 広瀬くん、放課後に来たこともないのに。
 ありえない。
 
 それでも、思い浮かべてしまった自分が、なんだか悔しくて、情けなくて――恥ずかしかった。