六時間目は道徳だった。
 遠くで、先生のしゃべる声が聞こえる。

 ノイズがかかったようにはっきりと聞こえず、ただ目の前にあるプリントとにらめっこしていた。

『たった一歩で未来が変わる。たった一歩で自分が変わる』

 たった一つ、足を進めたところで 一つ進んだところで、何が変わるの?
 たった一つ、勇気を出したところで未来を変えることはできるのだろうか?

 世界が優しくなるわけじゃないし、わたしが強くなるわけでもない。
 
 ありきたりで、なんて無責任な言葉だろう、と思った。
 世の中は綺麗ごとであふれている。
 
 それを信じたって、傷つくのはいつも、信じた側の人間だ。

 




 放課後、教室に残っているのはわたしと藍ちゃんの二人だけだった。

「しも、ひとりじゃ大変でしょ⁉ あたしも手伝うよ!」

「ううん、大丈夫。藍ちゃんは妹さんのお迎えあるでしょ? 早く行ってあげなよ」

 二人ずつ、当番制で回っている、教室の簡単な掃除。
 ごみを捨てたり、黒板を綺麗にしたりというだけなのだけれど……。

 ひとりは用事、もうひとりは欠席で、教室の掃除をやる人がいなくなってしまうのだ。
 そこでいつも通りわたしが頼まれて、断れずに受けてしまった……ということだ。

 断れないわたしも悪いけれど、なんでもかんでもわたしに押しつけるのはやめてほしい。
 藍ちゃんはかなりお怒りのようだったけれど、わたしはクラスの代表でもあるのだ。わたしがしっかりしなければ。

「ええ……。そうだけどさぁ……。しもも人のこと言えないじゃん。今日はご両親いないんでしょ?」

 藍ちゃんに言われた言葉でやっと思い出し、内心ため息をついた。
 確かに、今週は親は出張で家にいない。お姉ちゃんと二人だ。

 お姉ちゃんも家に帰ってくるのは遅いので、夕飯などの準備はわたしがしなければならない。