五時間目が終わった後、わたしは先生のお手伝いで少しの間、教室から離れていた。
 六時間目の準備をするため、小走りで向かっていた。
 
 近くの時計を見ると、まだ時間に余裕はあった。そのことにほっと安堵し、わたしは歩くスピードを落とす。

 そのときだった。

「しもちゃんってさあ、真面目すぎない?」

「うん、なんか……いい子ぶってるっていうか。頼めば何でもやってくれるから、逆に使いやすいって感じ?」

 笑い声が混じったその会話は、どう考えてもわたしのことだった。
 教室の中から聞こえてくるその声に、思わず足が止まった。

「あははっ、ウケるっ。ほんと、便利屋じゃん。ちょっと可哀想になるときあるけどね、あそこまでやっちゃうと」

「うちらが何か頼んでも、絶対断らないもんね。逆に怖いわ。……嫌われたくないだけじゃない?」

 もう、十分だった。
 それ以上聞いたら戻れなくなる気がして、わたしはそっと踵を返す。

 足元がふらついた。
 さっきまで落ち着いていたはずの鼓動が、どくどくと耳の奥で暴れだす。

 わたし、そんなふうに思われてたんだ。
 誰かのためにやってきたことは、ただの「いい子のふり」で「便利屋」。

 喉の奥が苦しくなる。
 何か言えばよかったのか。だからと言って何を言ったらよかったのか……。

 言葉を飲み込んだまま、いつもみたいに笑っていた自分を、思い出す。
 平気なふりをして、全部、当たり前みたいに引き受けていた。

 それが間違いだったの?

 誰かのためにと思って動いてきたことが、全部自己満足だったことに、今さら気づく。

 そのまま、廊下の壁にもたれかかって呆然としたまま、自分の足先を見つめていた。
 目の奥が、じんと熱かった。

 どんな顔で教室に入ればいいのか、わからなかった。