水分補給を終えた彼は、口元を拭って口を開いた。

「じゃ、どうしてそんなに落ち込んでんの」

「……わかんない」

「わかんないじゃない。噓つかない」

 本当はわかってる。
 ただ、無理やりそれを押し込んでいただけ。気づかないふりをしていただけだ。


 ――まだ怖いんだ。


 ボールが怖いんじゃない。

 役に立てなかったときの周りの反応が怖いんだ。
 一年前の、あの反応が……!

 ――『役立たず。お前は参加しなくてい』
 ――『昴は片付けやってればいいんだよ~』
 ――『しもちゃんって出しゃばっててウザいんだよね~。ホントいい迷惑』


「霜月」


 いやだ、わたしを呼ばないで……!
 大っ嫌いな、この名前を……!
 

「お前はお前らしくプレイすればいーよ。自分でできることをやればいい」


 何がしたい? わたしは何のために練習してきた?
 チームの役に立てるように? 確かにそうかもしれないな。

 けど一ミリぐらい、一パーセントくらい、「楽しみたい」「楽しんでみたい」ってそんな気持ちもあった……かもしれない。


 な?とわたしと目線を合わせて、子供をあやすようにそう言った。
 そのおかげか、波がたっていたわたしの心は徐々に落ち着きを取り戻していく。

「わ、わたし……」

 うん、と広瀬くんがうなずいてくれたのを見て、わたしははっきりと告げた。

「楽しんでくる……! チームの一員として、みんなと勝ちたい……!」

 もう一回、彼がうなずいた。
 「よく言った」とでも言いたげな顔で。