キーンコーンカーンコーン、と始業を知らせるチャイムが鳴った。
 同時に担任の先生が入ってきて、「ほら、みんな着席着席!」と手をたたく。

 藍ちゃんは、またあとでね、とこそっとわたしに言ってから、自分の席へ向かって行く。
 他のみんなも、名残惜しそうに輪を崩すと、決められた自分の席に着いた。
 
 じゃあ、と先生の視線がわたしに向けられて、それに応えるようにかすかにうなずいた。
 学級長のわたしに、何度も何度も向けられてきたこの視線。

 ため息が出そうになって、わたしはぐっとそれを飲みこむ。
 代わりに息を吸って、起立、と呼びかける。
 小さいかすれた声しか出ない。

 そして数人しか反応してくれない。いつもそうだ。

 わたしが精いっぱい呼びかけても、読書している人や、となり同士で話している人がいる。
 声が届いていないのは自分のせいなのだ。もっと声を張れば、聞こえるように大きな声で呼びかければ。

 なんとかしてその視線をわたしに向けたくて、さっきよりも大きく息を吸ってはっきりと口にする。

「起立」

 座っていた人は、今気づいた、とでも言いたげな表情でのろのろと立ちあがる。
 

 早く立ってよ。みんな待ってるって気づけないの?


 言いたい。言いたいけど、言っちゃダメ。

 顔が引きつらないように、意識して笑顔を作る。

「おはようございます」
  
 ――今日も、心の雨が止む気配はない。