いつもひとりぼっちだった体育館に、今日はもうひとりいる。 
 正確には昨日から……だけど。
 夕日の当たる体育館の隅っこで、それは行われていた。

「そうじゃなくって、もうちょっとひざを使って」

「こ、こう……?」

「そそ」

 グッドサインを出しながらわたしに指示するのは広瀬くん。
 あのとき「一緒に練習しよう」なんて言ってくれたのがまさか本当になるなんて思いもせず、わたしはどこかぼーっとしながら練習していた。

「ほら、しっかり集中してね~」

 変なほうへボールを飛ばしてしまって、彼に指摘された。
 
 彼は的確なアドバイスをしてくれて、一人で練習しているときより確実に成果が出ている気がした。
 広瀬くんがたまに見せてくれる見本は、すごくカッコよくて見惚れてしまうほどだった。

「じゃ、俺とラリーね。基本動作を使い分けてみよっか」

「ハ、ハイッ!」

「ふはは。敬語になんなくてもいいのに」

 その言葉に少し顔が赤くなる。無意識に出ていた敬語で恥ずかしかった。
 
 彼がボールをわたしに向けて真っすぐボールを上げた。
 わたしは両手をのばして、指の先で優しく返す。

「できるじゃん~」
 
 広瀬くんはにやりと笑うと、同じように高いボールで返してきた。
 
 さっきは二回で止まってしまったラリー。
 今回は、少しでも多く……!

 ひざを曲げて、力を入れすぎないように調節する。
 最初はこれができなくて、何度もつまずいた。
 まずボールが怖かったからどうしようもできなかったけれど、彼が教えてくれるようになってからボールが触れるようになっていた。

 真っすぐ弧を描いて彼の元に飛んでいったボールは、またわたしに戻ってくる。

「やった……!」