気が付いたときにはわたしまで寝ていて、校内に響き渡るチャイムの音で目を覚ました。
 慌てて目をこすって、あたりを見回す。

 屋上へとつながっている扉からは、かすかに光が漏れていた。

 となりを見ると、まだ少し眠そうな顔をして伸びをしている広瀬くんがいた。

「んー……よく寝た」

 気だるげに呟く彼を横目に、わたしは焦る。

「ちょ、ちょっと広瀬くん! どうしよう、こんな時間……!」

「ん? ああ、いーじゃん。授業終わってるし」

「よくないよ……!」

 わたしは重い体を起こして、制服のスカートを整えた。
 保健室に行っていることになっているけれど、実際に今いるのは屋上前の階段なのだから、それがバレてしまったら先生からのお説教コースまっしぐらだ。

「い、急がないと……! 先生に怒られちゃったらどうしよう……!」 

 そんなわたしを、広瀬くんはまるで他人事のように見つめていた。

「そんなに焦んなくていーよ。六時間目も終わったし、もうバレてもバレなくても一緒だよ」

「えぇ……!? 六時間目も……?」

 わたしは階段の踊り場にある掛け時計を見て、顔を青くした。

「さ、さすがに怒られちゃうよ……! すぐ戻らなきゃ……!」

 まだ悠長に座っている広瀬くんを横目に、わたしは教室に戻ろうと階段を降りようとした。
 けれど、その腕を掴まれた。

「……なに?」

 振り返ると、広瀬くんは少し真剣な表情をしていた。
 彼は前髪をかきあげて、頬杖をついた。

「霜月さ、もうちょい自分のこと考えなー?」

「……え?」

 彼の言葉が、意外で、ドクンと心臓が跳ねる。

「頑張るのはいいけどさ、それで倒れたら意味なくね? 今日だって本当はしんどかったんだろ?」

「へ、平気!」

 彼の真剣な表情を壊そうとする勢いで、わたしは思いっきり笑って見せた。
  
 でも彼の顔が変わることはなくて、ただわたしを見つめていた。


 彼はわかっているんだ。わたしが嘘をついていること。


 彼には隠せない。隠すことができない。
 この目は、嘘を見破ってしまう。

 いつもいつも、なんで見破られてしまうんだろう。
 さっきもそうだった。どんなに嘘をついても、きっと全て嘘が見えている。

 彼はしょうがないというように肩をすくめると、再び質問してきた。

「もう一度聞くよ? 今日無理してた?」

 少し躊躇って、次の瞬間には意を決して口を開いた。

「……うん」

「つらかったな。よくできました」

 彼はわたしの頭に手を置くと、優しくポンと撫でてくれた。