「そういや、今日お昼食べてないんだわ。お前は?」
お昼の時間はとっくに過ぎている。そんなこと聞かなくても、「食べたよ」とみんなは答えるだろう。そんな質問をするのだから、彼は抜け目ないのだ。
「食べたよ……」
刹那、彼の瞳がすっと細められる。
それから一秒もしないうちに、彼が口を開いた。
「嘘だ」
なんで彼にはわかってしまうのだろうか。
ありあえない。この仮面を、なぜ見破ることができるのか。
「俺の前では噓つかない方がいーよ? さっきの俺の言葉聞いてた?」
「ごめ、ん」
「すぐ謝らない~。はい、コレ」
お仕置きね、と悪戯っぽく笑った彼が、手にしていたクリームパンを半分にして、大きい方を渡してくれた。
おしおき……。
わたしとしては心配させてくなかったのだから、こうして半分もくれるとなると、なんだか負けた気がした。
彼の方が上手だと、ここで改めて思い知らされた。
せめてお金……と思ったけれど、その考えを読んだかのように、
「あ、お金とかくだらないこと考えなくていいからね」
と言われてしまった。
完全に行き場を失ったパンを見て、わたしはありがたく頂くことにした。
クリームはトロッとしていて、甘さが口に広がった。そのおいしさを噛みしめながら、わたしは最後までゆっくりと味わった。
となりを見ると、彼はスースーという寝息を立てて寝ていた。
わたしとしては、授業に行きたいんだけど……。
でも、具合が悪いことになっているのだ。簡単に戻るわけにはいかない。
廊下を歩いていても先生たちに不審な目で見られることは確実だし、ここ以外に行く当てもなかった。
呑気に転寝する広瀬くんは、いつもとほとんど変わらない。
授業中でさえも寝るのが日課になっている彼は、きっとこんなの日常茶飯事なんだろうな……。
あまり授業に積極的ではない彼だけど、なぜかすごく頭がいい。学年トップだったっけ……?
それにしてもよく寝ている。しっかり寝れているのかが心配になってきた。
家で勉強をしていて、寝れる時間がないのかな……?
でも自ら言っていないということは、言いたくないことなんだろうな。
わたしは彼からもらってしまったペットボトルのキャップを開け、口をつけた。
ジュースでもお茶でもない、水というのが実に彼らしかった。
