ヤバい、完全に遅刻だ……。
 重い体を何とか動かして、制服を着る。
 朝ご飯を食べる時間もなくて、お母さんの声を無視してわたしは家を飛び出した。

 今日も弁当を持ってくるのを忘れてしまった。
 昨日の朝からまともに食べてないな……。

 しかも、こんなに寝たはずなのに全く疲れが取れていない。
 それどころか、昨日よりもどっと疲れが溜まっている気がする。

 ふらり、と傾く体を支えながら、わたしは足を必死に動かした。

「おはよー、しも! さて、問題です。今日の朝、わたしは何を食べたでしょうっ!」

「おはよ、藍ちゃん。え? 藍ちゃんの朝ごはん? う、うーん……」

 さーん、にー、いーち、とカウントダウンを進めて、楽しそうに藍ちゃんが笑う。

「時間切れっ! 正解は、何も食べてない、でしたあーっ! だからお腹すいてるんだよねえ……。今日のお昼まで我慢できるかなー」

 それを聞いてわたしは苦笑いで藍ちゃんを見つめる。
 ご飯食べてきてないの? 心配だなあ……。

 今日は体育もあるから、途中でぶっ倒れないか心配だよ……。

「しもは何食べたー? パン? ご飯?」

「え、っと……ご、ご飯だよ」

「そっか、しもの家はご飯多いもんねー」

 きっと、本当のことを言ったら心配されてしまう。
 それが申し訳なくて、わたしはとっさに嘘でごまかした。

 疑うことを知らない藍ちゃんは、本当のことのように受け止めて反応してくれる。
 ズキッと胸が痛んだ。親友である藍ちゃんに嘘をつくことが、どうしようもなく苦しかった。

「あはは……。藍ちゃんはどうしたの? いつもは朝ご飯食べてるよね?」

「そうなんだよお、今日寝坊しちゃったの。気がついたらいつも家を出る時間で、自転車を全速力で漕いできたのー。途中でカバンが開いてプリントが舞うし、全部信号引っかかるし! 遅刻してるときに限ってさあ……」

「た、大変だったね……!」

 やれやれといったように肩をすくめる藍ちゃんに、わたしは相槌を打つことしかできなかった。
 
 おなかはすいてるし、頭は割れるように痛いし……。
 長い間付き合ってきた藍ちゃんなら、何か勘づいてしまうかもしれない。

 わたしは「そろそろチャイム鳴るから席に着かなきゃ」と必死の笑顔で、藍ちゃんと距離を作ったのだった。