「えっ! 今日お昼持ってきてないの⁉」

「あはは、朝忙しくて忘れちゃったんだよね」

 お昼時、弁当を持っていないわたしのところに藍ちゃんがやってきて、驚いたような顔をした。
 わたしの言葉を聞いた藍ちゃんは、半分こしよ!と言ってくれたけど、わたしは笑って断った。

 申し訳ない。それは藍ちゃんのお母さんが藍ちゃんのために作ったものなのに。

「ほら、友達呼んでるよ。わたしは何とかするから。サイアク購買で買ってくる!」

 まだ心配そうな顔をしていたけど、わかったと言って友達のところへ行った。
 
 藍ちゃんに嘘をついたわけじゃないけど、購買で何か買うつもりはない。

 ふー、何をしようか。
 このまま一人、教室で読書っていうのも気まずいし。
 だからと言って、どこか行く当てもないし……。

 窓の外から見える体育館を見て、わたしは今日の朝のことを思い出す。

 今日の朝はしっかり練習の時間を取れた。
 けど、やっぱりボールへの苦手意識が強すぎて、まともに練習はできなかったけれど。
 全く上達した気はしないし、このまま当日になってしまいそう。

 もし本当に、全く上達しないまま当日になったら。
 
 ――『役立たず』
 ――『ぼーっと立ってるなよ、フツーに邪魔』

 ――『お前さ、自分がどれだけチームに迷惑をかけてるのかわかってるの?」

 嫌だ嫌だ、聞きたくない。
 
 昔の記憶が瞬間的によみがえってきて、わたしは目をつむった。

 
 静かに、して……。


 気がついたら、目の前は屋上だった。
 無意識にここへ向かっていた。ここなら、ひとりになれるから。
 
 
 ドアを開けると、ひとつ、人影があった。
 どうやら寝ているらしい。フェンスにもたれかかって、目を閉じている。
 よく寝るなあ。今日も授業中に寝ていたような……。

 ここを知っている人と言ったら、この人しかいない。

「広瀬くん」

「……なに?」

 ああ、聞こえてしまっていた。
 少し後悔するも、もう遅い。

 彼は眠たそうに目を開けて、わたしと視線を合わせる。

「あ……っと、ご、ごめん、邪魔しちゃったよね、わ、わたしはこれで……」
「俺、邪魔とか言った? 勝手に決めんなよなあー」

 めんどくさそうにそう言い捨てて、じっとわたしを見つめる彼。
 
「で? どした?」

 彼の突き刺すような視線が、わたしを射抜いた。