世界でいちばん優しい嘘を、嘘つきの君に贈りたい

 となりで、堂々と寝ている人がいる。その名も、広瀬くん。
 今は5時間目の一番眠い時間帯。しかも歴史となれば眠くなる。

 広瀬くんはつい寝ちゃったという感じでもなくて、授業に興味がないようだった。
 もともと不登校気味だったからか、先生もあまり口出しできずにいる。

 これは今日のことだけではなくて、ほとんど毎日。

 最初のころはわたしも何度か起こしたけれど、寝れていないのかな……と思うと、起こせなかった。
 
 今日も、この時間は一回も起きることはなかった。



「お前さあ、よく寝るよな。夜いつ寝てんの?」

「んー、3時」

「それがおかしいんだっつーの。もっと早く寝ろよー。俺でも2時には寝てるぞ?」

「俊だって人のこと言えないじゃん」

 そうだけどさー、と頭をかく彼の友達、俊くん。
 広瀬くんはカラカラと笑って、俊くんの肩をたたいた。

 話題は次の球技大会へと移り、藍ちゃんまで寄ってくる。

「球技大会って、バスケとバレーだけだったよな?」
「そうそう、あたしはバレーやる! 朔くんは?」

「えー俺? なんでもいいけど、バスケの方が得意」

 シュートを打つマネをして、ニヤッと笑う広瀬くん。

「朔ってバスケ部だっけ?」

「えー? 趣味だよ、趣味」

 わたしはその3人の会話をどこか遠くで聞いていた。

 二週間後にある球技大会。
 もし秋に文化祭というならば、春にあるのは毎年恒例の球技大会だ。

 わたしはあんまり球技が得意ではない。
 一年前もなんとかやったけれど、やはりチームの役に立てず、足を引っ張ってしまっていた。

 憂鬱だけど、休んだらサボりだと言われてしまうかもしれない。
 それだけは嫌だった。避けなければならなかった。