世界でいちばん優しい嘘を、嘘つきの君に贈りたい

 帰り道、すっかり外は暗くなっていた。
 さっきとは打って変わって、人通りは少ない。

 なじみのある公園を通り過ぎようとしたとき、見知った姿が遠くに見えた。
 暗い中だったから、姿はくっきりと見えない。

 広瀬くん……?

 ベンチに座って俯いているようだった。
 そのシルエットはどこか物悲しげで、いつもの彼とは何か違う。
 
 
 近づけない。


 彼のオーラが、彼のいつもと違う雰囲気が、余計にわたしを遠ざける。

 こんな真っ暗な中、懐中電灯も何も持たずに、ただひとりでベンチに座っている。
 家族は心配していないのだろうか。

 わたしの方が心配になって、声をかけようかと悩んだ。

 そのとき、今日の放課後、キツイことを言ってしまったことを思いだして、踏み出しかけた足を戻した。

 今日、もしあの時、あんなことをわたしが言わなかったら。
 変なプライドが邪魔をして、どうしても声をかけられなかった。
 

 何か一言でも、言ってあげられればよかった。

 
 そんな勇気さえも出ない自分に、腹が立った。




 重いマイバックを持ちなおして、気づかれないようにそっと公園を離れた。
 
 どうして彼があそこにいたのだろうか?

 もしかして、この近くに住んでいるのかな……。
 でも今まであそこに広瀬くんがいるのを見たことがない。

 懐中電灯で足元とその先を照らしながら、わたしはさっきの光景について考えこむ。

 なにか、彼の裏のような部分が見えてしまった気がした。
 あのケラケラ笑う、本音の読めないカラッとした広瀬くんの、裏の表情(かお)



 もしかしたら、広瀬くんにもなにか抱えているものがあるのかもしれない。
 夜の公園(あそこ)でしか見せることができない、何かがあるのかもしれない。
 最初に出会ったときに感じたように、やっぱり彼はあの笑顔の下に隠している。


 広瀬くんなりの苦労が、もしかしたら……。
 

 懐中電灯の光が、家の玄関を照らし出す。

 彼を見る目が、少し変わった気がした。
 そして、今日、つい強く言ってしまったことを後悔した。

 わたしは、懐中電灯の電源を切って、家の中へと入った。