心臓がうるさいくらいに鳴っている。
 喉が詰まって、呼吸さえままならない気がした。

 さっき言われた言葉が頭によみがえって、こびりついているように離れない。

 ――『人の頼みを断れないって、逆にかわいそ』

 なんでわたしがかわいそうだなんて言われないといけないの?
 かわいそうじゃないよ。押しつけられているわけじゃない。わたしが引き受けているんだ。

 頼まれているのも、わたしを頼ってくれているっていうことだ。
 かわいそうだなんて思われる部分は、ひとつもない。


 ……ひとつも、ないはずだ。


 ドロドロとしたマグマのように、わたしの黒い部分が流れ出そうになる。
 わけのわからない形のない感情が、外に溢れてしまいそうになる。
 
 春なのにどこか冷たい風を頬で感じながら、わたしは地面を蹴った。
 
 髪が風になびく。背中でカタカタと音がする。

 ほとんど何も入っていないカバンは軽いはずなのに、見えない何かが乗っているかのように重い。
 
 走るうちに、鼻の頭が冷えてきた。
 悲しくもないのに、なぜか目元が濡れている。
 
 ぎゅっと唇を結んで、わたしはスピードを上げて桜並木の下を駆けた。