世界でいちばん優しい嘘を、嘘つきの君に贈りたい

「昴ったら‼ お母さん心配したのよ‼ 春とはいえ夜は寒いのにこんな外で寝るなんて……! 風邪でもひいたらどうするのよ! もう全く……」

 もう日は完全に上っていた。
 お母さんの怒鳴り声で目を覚まし、今に至る。

「もううるさいなあ……」

 目を覚ましたすぐ後の大声は耳に悪い。

 頭にガンガンと響くお母さんの声に、わたしはぼそりとつぶやいた。
 お母さんの耳にも届いたみたいで、また口を開こうとする。

「何言ってるの! 心配かけてるのは昴でしょ⁉」
「心配してほしいとも思ってないよ! もう放っておいて!」

 気がついたら、そんな言葉をぶつけていた。
 お母さんの顔が悲しそうに歪んだ。わたしはかまわず、乱暴に玄関のドアを開ける。

「昂!」

 お母さんの声が追いかけてくる。
 お父さんも何事かと目を覚まして、わたしの方に視線を向けていた。

「落ち着け、昴。どうしたんだ」

 何かお父さんが言っている。
 でもきっと、わたしの味方になってくれる人はいない。

 目の前の階段を駆け上がり、自分の部屋に閉じこもった。
 すぐに制服に着替えて、鏡を見てさっと髪型を整えたら、すぐに家を飛び出す。

 お母さんの声が聞こえた気がするけど、無視。
 今は心配する声も、怒鳴り声も、謝罪の声も、どんな声も聞きたくなかった。

 ああ、イライラする。なんでこんなにイライラするんだろう。
 無性に泣きたくなって、わたしはぎゅっと唇を結んだ。

 わからない。わからない。



 今はただ、一人になりたかった。