ハッと目を覚ましたのは夜中の3時だった。
 真っ暗な中、ぼんやりと光る電気の眩しさに、ぎゅっと目をつむる。
 
 そのまましばらくしてゆっくり目を開けていくと、目の前にはご飯を食べる前にやっていた、問題集が開きっぱなしになっていた。

 筆箱と、ノート。理科の問題集。手にはシャーペンを握っている。
 
 やっちゃった、久しぶりに寝落ちしちゃった……。

 しかも、全く理科の宿題は進んでいない。
 ということは、やり始めてすぐに寝ちゃったってこと……?

 今から理科の宿題をやろうかとも考えたけど、また眠気が襲ってくる。
 なんとか目を開けて、何をしようかと考え込む。

 こんな微妙な時間にどうしろというのか。

 今から寝たら朝起きれないし、かといって今からずっと起きていても、授業中に眠くなるに違いない。

 迷った末に、お気に入りの灰色のパーカーを羽織って部屋のドアを開けた。
 外に出ようと思ったのだ。

 音は聞こえない。お母さんもお父さんもお姉ちゃんも寝ているみたい。

 慎重にドアを開けて、なるべく音を立てないように階段を下りる。

 真っ暗な階段は少し怖いから、すぐに電気をつけて足元を照らした。
 こんな時間に自分の部屋から出ることはなかなかない。
 なかなか、というか、初めての気がする。

 靴を履いてとんとんとつま先を叩いて、わたしは静かにドアを押し開けた。
 夜の涼しい風がふわりと吹き、澄んだ新鮮な空気に、わたしは思わず深呼吸をした。

 少しだけ雨のにおいがする。ジメジメとした、しっとりと湿ったような、そんな感じ。

 雨は降ってはいないみたい。夕方、ザーザーと音をたてて降っていたのが嘘のように、夜の静けさが広がっていた。
 あんなに降っていたのに止んだのか、と点々と残る水たまりを見てそう思う。


 近くにある公園に行こうかな……。
 あそこは人も少なく、夜に限らず静かな公園だった。

 ひとりで時間をつぶすにはちょうどいいかもしれない。
 でも、こんな真っ暗な中、一人で歩くのは怖い。懐中電灯も持ってきてない。

 仕方なく、わたしは濡れていない玄関の前に座り込む。
 
 分厚い雲が空を覆いつくして、月も星も見えなかった。
 まるでわたしの心をそっくりそのまま映しているようで、空から目を逸らした。



 ――いつの間にかわたしは、その場で眠りに落ちていた。