部屋に入ってから一時間。数学の予習を終え、理科の復習を始める。
 
 数学は予習があるのとないのでは、なかなか違う。
 予習ができなかった日は次の日の数学でかなりつまずいてしまった。

 なるべく毎日数学の予習の時間は取っているけれど、他の教科ももちろん勉強しなきゃなので、時間が足りない。
 一日がもっと長ければいいのに。

 まあ、そんなこと願ったところで一日の時間が長くなるわけでもない。

 ふうっとため息をついて、問題集に目を向けた。 
 わたしは間違えた計算式をぐしゃぐしゃっと消して、空白部分に新しく書き始める。

「すばるー! ご飯よー」

 お母さんの声が聞こえてくる。
 本当はこのページだけでもやってしまいたかったけど、しょうがない。
 途中になっている理科の問題集にシャーペンを挟んで、そのまま閉じた。
  
 その後、コンコンコン、とわたしの部屋をノックする音が聞こえてくる。
 お姉ちゃんだ。

「昴。ご飯だって」

 わかってるってば。もうお母さんに言われたよ。
 二回も言わなくてもいいのに。

 そう言いたいのを押し殺して、そう、と何とも愛想のない返事をしてしまった。

 

 昴。これはわたしの名前だ。
 おうし座の一部である星の集合体を意味する。
 プレアデス星団とも言われるらしい。


 そんな、名前。


 わたしには合っていなさすぎる。キラキラと光輝く星は、わたしには似合わない。
 もともと男の子っぽいと言われて何度もからかわれてきた。

 だからみんな、わたしの名字を呼ぶ。
 わたしがそうしてってお願いしたからだ。

 お母さんが、お父さんがどんな思いでわたしにこの名前を付けたのかは、わからないけれど。

 心から愛すると書いて心愛(ここな)。それがお姉ちゃんの名前。
 お姉ちゃんみたいに、かわいらしくて女の子みたいな名前がよかった。



 また、わたしの名前を呼ぶ声がして急いで下に降りた。