あの人が屋上を去った後に、わたしも急いで扉を開けた。
 
 雨は少し止んだようにも見えたけど、体はずいぶん冷え切っていた。
 屋上手前の階段に置きっぱなしだった学校指定のバッグを持って、暗い校舎を出る。

 さっきの人はしっかり帰れているだろうか。
 傘を忘れて雨の中歩いて帰っている可能性も十分にあり得る。

 傘をさして帰っていることを願いつつ、わたしは帰路についた。





 家に帰ると、まず温かい空気がわたしをやさしく包み込んだ。

「ただいま」
「おかえり、遅かったわね。どこか寄り道していたんじゃないでしょうね? 雨もひどくてこんなに暗いんだからあんまり遅くなっちゃうと心配するじゃない。もうまったく……」

 キッチンの方で、お母さんの声が聞こえてくる。

 そうだ、今日は休みなんだった。

 なんでこういう時に。今日はとことんついてない。

 とりあえず、雨に濡れた傘を玄関で開いて乾かしておく。

 傘をさしていたとはいえ、バッグもなかなか濡れてしまっている。サイアクだ。
 きっと、こんなに濡れたバッグや制服を見たらごちゃごちゃ言われるのだろう。そう思ったら案の定、

「傘はしっかり開いて乾かしておくのよ。もし制服が濡れているならしっかり雨を払いなさいね。早く着替えて洗濯しておいてくれる? 今からやらないと明日までに乾かないもの。ブレザーは仕方ないわね……」

 と、ブツブツ言う声が聞こえてきて、わたしはため息をつく。
 その心配の声すらめんどくさく思えて、靴を脱いでそのままわたしの部屋に行くために、階段を駆け上がった。

 自分の部屋に行く前にお姉ちゃんの部屋の前を通り過ぎる。
 扉はきっちり閉められていたけど、音楽を聴いているのか、少しだけ音が漏れていた。

 いつもお姉ちゃんは、朝と夕方、必ずこの時間に音楽を聴いている。

 いいな、お姉ちゃんは。
 自分のしたいことができて、わたしのようにいろいろ言われなくて。
 
 明るい音楽が途絶える前に、わたしは自分の部屋に向かった。