緑を食む


 あれ。今井くんどうしたのかな。
 朝教室に入ると、今井くんが机に突っ伏していた。いつも元気に友達としゃべっているのに。珍しいこともあるもんだな。
 私は気になって、そうっと眠っているような今井くんの側に寄って、顔を覗きみようとした。すると、隣の席に座っていた男子が苦笑しながら教えてくれた。
「やっぱり相原さんもびっくりするよな。心配ないよ。こいつ、ここんとこ連日旅人が来るらしくてさ。寝不足なんだって」
 今井くんはホームルームが始まるまで寝ると言って、そのまま熟睡してしまったそうだ。私はほっとした。
「そうなんだね。びっくりしちゃった」
 そう答えて、今井くんの寝顔を盗み見る。眉間に皺が寄っていて、とても苦しそうだった。これはこれで心配になってしまったが、起こすのはかわいそうだ。私はそっとその場を離れ、自分の席についた。
 午前の授業が終わったあと、今井くんは「眠いんで早退します!」と宣言して帰っていった。先生が「夜更かしすんじゃねえぞ」と小言を言いつつも心配そうな顔をしていたのは、今井くんの顔色が悪かったからだろう。
 私はよろよろと帰って行く今井くんの後ろ姿を見送りながら、違和感を覚えた。
 私は毎晩夢に旅人がやってきたけど、寝不足とかにはならなかったけどなあ。
 体質だろうか。それとも、私は慣れてしまっていたが、ほとんど旅人の来ることのなかった人にとっては辛いことなのだろうか。熟睡感が得られないと言うし。そう言えば、旅人がやってきた翌朝のみんなは「サイアクー」などと言っていた。
 大変そうだなあ。今井くん大丈夫かな。
 そんなことを考えながら、私はお昼ごはんを食べようと席を立った。
「あ、あの。一緒に食べてもいい?」
 女子三人がグループになっているところに、やっとのことで声をかけてみた。声をかけられた女子たちは、一瞬驚いたように目を見開き、そのあと「もちろん! 相原さんと食べるの初めてだね」と笑顔を見せてくれた。