緑を食む

 朝の高校の校舎内はいつもどおりだ。生徒たちがざわざわと楽しそうに動き回っている。
「ねえ、ちょっと聞いて! 今日久しぶりに『旅人』たちが来て『緑』を食べていったの!」
「えー、マジ? あんた最近疲れてるんじゃないの?」
 斜め前の席のクラスメイトがそんな会話をしている。私は聞こえないふりをして、窓の外の色づき始めた紅葉を眺めた。
「旅人」が夢の中に動物たちを連れてきて「緑」を食べるのは、特に珍しい事象ではない。特に思春期あたりの子供たちがよく夢の中の緑を食べられてしまうらしい。どうやら多感な時期のストレスからそんな現象が起こるらしい。
 まあ夢の中のことなので、実害はない。が、その分熟睡感を得られないので、一部の人の間では良くないこととされていた。
「もうサイアクー。ちょっといい化粧水とか使おうかなあ」
「いいね。放課後つきあうよ」
 彼女たちはなんだかんだ言って結局は楽しそうに放課後の予定を立て始めた。私は顔を窓の外から正面に戻した。すると。
「はよっ、相原」
 今井くんがひょっこりと私の顔の前に顔を覗かせた。私はちょっとびっくりしてのけぞった。
「ははっ! ひでー、そんなにビビんなよー」
 今井くんはいつも声が大きい。その声につられて、他の男子たちもやってきた。
「お前の顔が変だったんだってさ、ねー、相原さん」
「変ってどうゆーことだよ! このイケメンフェイスに対して!」
「あれ? 今井んち鏡なかったんだー」
 ぎゃはは、と今井くんたちは騒ぎ始めた。私は早くどっか行ってくれないかなと思いながらも黙って笑顔を作っていた。
「あ、ごめんな」
 今井くんがひゅんとこちらに顔を向けた。そして軽く手を上げると、男子たちと一緒に自分の席のほうへと移動していく。
 喧噪が去ると、私はほっと息をついた。騒がしいのは苦手だ。
 嫌いなわけじゃない。むしろ私もあんなふうに騒げたらな、と思う。
 でもどう動いて何を言ったらいいのかわからない。本当はもっと自分らしく生きたいのに。だから苦手だった。