「こんばんは。あなたの『緑』を食べに来ました」
私が夢の中でぼうっと突っ立っていると、私の顔をした旅人が現れた。
「ほら、たくさんあるよ」
旅人が背後に声をかけると、わらわらと動物たちが飛び出してくる。
ゾウ、キリン、ヤギ、ウシ、シカ、ウマ、ウサギ、リス、スズメ……
どうぶつたちは美味しそうにもしゃもしゃと緑を食べ始めた。
「おいしいかな」
私は呟いて、すとんと腰を下ろした。動物たちが緑を食べてくれているのを見ると、心が癒やされる気がした。
と同時に、罪悪感が湧き上がる。
ストレスだったってことなのかな。
今日、今井くんに告白された。
一年生の時から気になっていたと。今井くんが私のことを好きなのは、ほとんどクラス全員が知っていたと。
「あんだけアプローチしてたのに、気付いてくれなかったの、相原くらいだから」
そう怨じられたが、私は単に今井くんが人なつっこいだけだと思っていたのだから仕方がない。
告白された時、戸惑った。けれど同じくらい嬉しかった。私のことを好きだなんて思ってくれる人がいるんだ、と、心があったかくなった。
なのに、それがストレスなんだろうか。
「こんなに緑が生えちゃうくらいストレスなのかな?」
もしゃもしゃと緑を食べる動物たちに聞いても答えてはくれない。
「ストレスの現れ方は人それぞれってことなんじゃないですか」
「わあっ!?」
私は後ろを振り向いた。そこには私の顔をした旅人が真面目な顔をして立っていた。そして顎に手をあてて呟いた。
「そもそも『ストレス』ってなんなんでしょう」
私に聞かれてもよくわからないが「嫌なこと……?」と答えてみた。旅人は首を横に振った。
「今井くんに告白されて嬉しかったんでしょう?」
恥ずかしかったけれど、私は頷いた。
「クラスメイトにお昼ごはんに混ぜてもらえなくて、とても嫌だったんでしょう?」
私は頷いた。でも、あの時に旅人は現れなかった。
「緑も生えないほど嫌だったのでしょうか」
旅人がそう尋ねてきたが、私にはよくわからなかった。動物たちに視線を移す。
わからない。なぜ緑が生えてくるのか。全然生えない人もいるのか。
動物たちが食べるのを見つめていると、だんだんと地面の茶色い土が見え始めた。私はなぜかぎょっとした。
ーー全部は食べないで。
本物の自分が見えちゃう!
旅人は手を上げた。
「今日はこのくらいでお食事は終わりですよ」
そう告げると、動物たちはまだ食べ足りなそうな表情を見せながらも旅人の背後へと消えていった。
「では、また明日会いましょう」
そう言うと、旅人もすうっと見えなくなった。


