「げっ……むっちゃきてんじゃん」

 スマホを見たトモナリは顔をしかめた。
 たくさんの通知が来ていてスマホを見ている間にもメッセージが入ってきていた。

「はぁ……ヒカリ、行くぞ」

「んー」

 ヒカリは手に持っていたお菓子を口に詰め込むとトモナリの頭にしがみついた。
 寮を出て構内を歩く。

 休みの日なのでいつもより人は少なめである。
 ただ寮生も多く、部活や学生のための娯楽も実は構内にあったりするので出歩いている生徒ももちろんいる。

 ヒカリを頭に乗せているトモナリは目立つので通り過ぎる人は大抵チラリとトモナリの頭に視線を向けていく。
 時々ヒカリちゃーんなんて声が聞こえてヒカリは手を振りかえしたりしている。

 トモナリが聞いた話ではヒカリファンクラブなるものがひっそりと存在しているらしい。
 あまり有名になるのも困りものであるが、ある程度有名になればヒカリに手を出すことも難しくはなるだろう。

 もうアカデミー内の建物の位置もかなり覚えてきた。
 トレーニング棟という建物に入ったトモナリはトレーニングルームに向かった。

「あっ、遅いぞ!」

「もう始めてたよ!」

 トレーニングルームに入るとトレーニングをしている人も意外といる中で見知った顔がトモナリのことを待っていた。
 ユウトやミズキを始めとした8班と4班のみんなだった。

 能力値を上げるためにはトレーニングは有効である。
 たとえ1でも能力値が上がれば変わってくるし現段階ではまだみんなレベル5なのでまだまだトレーニングでも能力値を上げられる。

 秘訣を教えてくれというのでトレーニングだと教えてやって以来休みにはみんなでトレーニングに勤しんでいた。
 8班だけじゃなく4班の子まで来るのは意外だったし、割とキツめのトレーニングをしているのにみんな食らいついてくる。

 レベルが低くてトレーニングも始めたばかりなので本当に能力値が上がってやる気が出たようだ。
 今日もトレーニングする予定だったのだけどマサヨシが訪ねてきたので連絡する暇もなくて遅れてしまった。

 トモナリのスマホに来ていた大量の通知はユウトとミズキによるものだった。
 心配というより半ば悪ふざけである。

「今日は割と人が多いな」

「だいぶあったかくなってきたしみんなも活動的になってきたんじゃない?」

「みんな柔軟は?」

「もうやったよ」

「そうか、ちょっと待ってくれ」

 いきなり体を動かすのも危ない。
 トモナリは軽く体を動かして伸ばす。

「ヒカリちゃーん、おはよう!」

「おはようなのだ!」

「おはよ」

「サーシャ〜」

「はい、あげる」

「さすがだ!」

 トモナリが柔軟している間ヒカリは女子に囲まれる。
 ヒカリのお気に入りはお菓子をくれるサーシャのようである。

 最近はトモナリの手が離せない間はサーシャに抱かれるぐらいには気を許している。
 サクサクとチョコのお菓子を食べているヒカリはとてもご機嫌だ。

「ふぅ、それじゃあ……」

 柔軟を終えたトモナリがトレーニングルームを見回す。
 満杯とはいかないけれど器具を使っている人は多く、みんなが同時に同じものを使っているような余裕はない。

「あれを二台二人ずつ使って、あっちで二人……あとはあっちで」

 何人もいて器具を独占するのも良くない。
 一人は補助について交代で使い、他に利用したい人がいなさそうなら別のペアと交代で使うことにする。

「これぐらいでいいかい?」

「もうちょい重くしようかな」

「まだいくの? さすがだね」

 トモナリはコウと組んでバーベルに挑んでいた。
 前までなら一人と一体だったので一人でも問題なさそうな重さでやっていたけれど。今回はコウがいてくれるので少し重量を増やす。

「ふっ!」

「おお……」

 トモナリの見た目からは考えられないような重さをゆっくりと上げ下げしてコウは目を丸くしている。
 回帰した時に比べればかなり体つきもがっちりしてきたのでこれぐらいならまだいけそうだ。

 何度見てもすごいものであるとコウは思う。

「ふんっ! ふんっ!」

 トモナリの横でヒカリもトレーニングをしている。
 寝転んでバーベルの重りを持って腕の力で上げ下げしている。

 可愛らしい光景なのだけどヒカリが上げ下げしているのは20キロの重り。
 意外と侮れない力をしているのだ。

「交代だ」

 数セットこなしたけれど残念ながら能力値は上がらなかった。
 レベルもゴブリンキングと戦ったトモナリは7になっているし、これまでもトレーニングで能力値で伸ばしてきた。

 ちょっとやそっとのトレーニングじゃ能力値は上がらなくなってきた。
 それでもトレーニングするのは好きなので続けていくがこれからもっとレベルが、上がっていくとトレーニングで能力値を上げるのは期待できない。
 
 次はコウの番なので交代する。

「へぇ、意外とやるじゃん」

「ありがと」

 コウの体は見た目に細めである。
 これまでも鍛えてこなかったし比較的ガリ勉タイプなので細いことはコウも自覚している。

 ただ覚醒者であるので見た目以上の力はある。
 それでも最初はヘロヘロだった。

 姿勢をしっかりとして、力の入れ方を学んで、繰り返してトレーニングをするうちに持ち上げられる重量も上がった。
 魔法系で力が低めなので上がりやすかったということもあるのかもしれない。