お互いすっかりその気で寮のベッドでくっつきあっていたのに、急に具体的な数字を出されて匡希は戸惑った。
目の前にいる玲於奈のやけにキラキラした大きな目を見て、質問する。
「学年30位って何?」
「中間テスト。全教科総合で30位以内」
「十王寺、俺さあスポーツ推薦…」
「匡希なら出来る」
私立青羽学院では、定期テストで学年の上位30位以内は廊下に張り出されるらしいが、まだ1年生の一学期で、匡希も、おそらく他の1年生も自分の頭の出来がこの学校でどの程度通じるのかはわからなかった。
玲於奈は別だ。
玲於奈は入学式で1年生の代表として挨拶した、つまり入学試験で1位だったという事だ。
「匡希が30位以内に入ったら付き合おう」
「センパイ、定期テストで学年30位以内って厳しいッスか」
匡希は翌日の寮での夕食を、バスケットボール部の先輩と同じテーブルで食べた。
「イチは何組?」
「3組ッス」
「掲示されんのはほとんど1、2組だろ。なんでそんな事聞くんだよ」
「かわいい子に付き合ってって頼んだら、30位以内ならいいって言われたんで」
「お前それ、本気にしてんのか。体よく振られたんだよ」
「すげぇかわいいから諦めきれない」
「脈は?」
「キスはしました」
おおーと感心したような声が先輩たちからもれた。
「何回くらい?」
「回数?わかんないけど1時間くらいス」
「え、イチってひょっとして童貞じゃないの」
「違います」
その場の空気が固まった。
「ごめん、俺たち全員童貞だからアドバイスできねえわ」
「いや、そっちはいいんで、定期テストのアドバイスください」
放課後の補習クラスはスポーツ推薦には出席は不可能で、始業前の補習クラスもあるがこちらも朝練で無理だった。
仕方なく先生に相談しに行くと、追加の課題を出してくれた。
「大学でバスケしたいんで学力も上げておきたいんです」
「一位!志がたかいのはいいことだ!」
毎日、部活が終わって食事をし、風呂から出てから寝るまで食堂で宿題と追加の課題をやり、筋トレもして、朝も朝食の準備をしている音を聞きながら課題を朝練までの1時間やった。
食堂でやっていると、わからない所を聞くことが出来て、センパイたちも同級生も皆それなりに頭のいい事に気がつく。
一学期の中間テストが始まり、何が何だかよくわからないうちに終わった。
最後の試験が終わり、その後の部活は爽快で、夏の気配を感じながら体育館を思う存分駆け回った。
「イチ、今週末の試合出すからな。赤点取るなよ」コーチから言われて、急に不安になる。
マネージャーから渡されたユニフォームを持って帰り、試合で着るパワータイツや靴下も用意して、バッシュの靴紐もチェックした。
部屋をノックする音がする。
「ハイ」
「匡希?入っていい?」久しぶりに玲於奈がやって来た。
寝る前にたまに顔を出して、キスしたりハグしたりしていたが、試験期間は顔を見なかった。
「新しいバッシュ買わないとな…」
中3の終わりに買ったバッシュはくたびれてきていた。
「足大きいね」
「30センチ。水泳部はどう」
「今日、金曜日だから夜10時までプールの開放日なんだ。これからまた泳いでくる」
青羽学院の屋内温水プールは月に何度か夜まで開放している。
十王寺は白い上着の裾をめくり、ジャージの腰のあたりを少しずらして、裸のおなかと競泳パンツをチラと見せた。
「十王寺わざと?それとも本当に泳ぎに行く?」
「玲於奈って呼びなよ」
「玲於奈」間近で顔を見て呼ぶ。
「匡希は他に好きな子できた?」
「なんで」
「サクラが匡希の話ばっかりする。凄く上手いしかっこいいし優しいんだって」
サクラというのは新しく入ったマネージャーのうちの一人だ。
「ヤキモチ?マネージャーとは何もねーけど」
「違う」
「さっきの水着見せて」
玲於奈の白い上着のチャックを下ろす。その下は上半身裸だった。
「なんで裸なの」
「別に…ラッシュガードだから」
胸元にキスして、ラッシュガードを脱がせ床に落とした。
ジャージも脱がせて、競泳パンツだけの玲於奈と向かい合わせに座る。
「玲於奈、キスしてもいい?」
返事を待たないでキスした。唇を合わせるキスまでは可。それ以上はまだだめだ。
「匡希は僕のことつまんない?」
「ん?」玲於奈が匡希の手をつかんで胸にあてた。
「学校にはかわいい女の子がたくさんいるから」
「そんなことで悩んでんの。30位以内になったら付き合おうって言ったのそっち」
「何もさせないから嫌になった?」
「嫌なわけ無い。来週定期テストの結果がわかる。もし、30位以内なら俺と付き合おう。俺の理性凄くない?普通好きな子がこの状態で来て、そんなかわいいこと聞かれたら100%やるだろ」
不安そうな玲於奈の顔を両手で挟んでキスした。
「玲於奈は俺が30位以内に入れないと思って泣いてる?」
涙目は決壊して、もう玲於奈は普通に泣いていた。
「みんなが言うんだ。30位以内はほとんど1組と2組。他のクラスは無理だって」
「自分で30位以内って言って、自分で泣いちゃうのか」
「匡希と毎日話して、たまにキスしてたら大好きになった」
「それでこんなエロい格好して来たんだ」
玲於奈は頷いた。
「だって試験の結果が出て駄目だったら…」
「駄目でもあきらめない。そのエロいテンションをキープしておいて」
「十王寺ってクラスでどんな感じ?」
「玲於奈は人気あるよ。顔も性格もいいもん」
二人はいったマネージャーのうちの一人、ありすが言った。
土曜日の試合に、体育館のギャラリーに玲於奈の姿があり、周りには何人かの女の子が集まっている。
アップも終わり、試合が開始され、ユニフォームを着てベンチに入る。
これは公式戦だった。何としてでも勝たねばならない。
試合の後の後片付けとミーティングを終わらせて帰って来て、急いで食事と風呂を済ませ、また談話室で先輩四人と今日の試合の映像を見ながら話をして、部屋に戻ってきたのは10時過ぎだった。
「疲れた?」
「いや、出番そんなに無かったから」
「活躍してたね」
「負けたら意味ないだろ」
「また応援に行っていい?」
匡希はベッドに座った玲於奈に抱きついた。
「負けたくないって凄く思うんだ」
「わかるよ」
「また観に来てほしい。次は勝つ」
玲於奈の髪からは微かにプールの塩素のにおいがした。
玲於奈は部屋に戻り、匡希は寮の部屋を出て一階へ行った。
玄関脇のささやかなスペースが、運動部所属の寮生のためのスペースになっていて、ヨガマットを敷きストレッチをしてから軽く筋トレをした。
今日、第四クォーターで投入されて一気に10得点以上稼いだ。
それでも重点的にマークされてからは差を縮めきれず負けた。
学校は何を期待して自分を寮の費用を出してまでここへ呼んだのか、よく考えねばならない。
話し合いで言われた。
単に勝てばいいというものではない。君個人の成長を見たい。君は必ず日本代表になる。青羽は文武両道をモットーにしていて、成績にも一定の基準がある。何事も無駄にはならない。寮生活においては、すべての時間を自分のために使えると思って欲しい。
玲於奈の無謀とも言える30位以内という目標は非常に意味があったと匡希は思った。
寮生活での時間はすべて自分のための時間で、どう使うかは自分次第。
勉強に使ったのは一日のうちのたかが二時間半から三時間。だがこの一ヶ月は格段に勉強に対する意識が高まり、授業も有意義になった。
時間に対する意識が高まった事で部活の練習に対しても集中力が上がり、部活ノート、ミニバスの頃からつけている記録にもそれが現れている。
今日の敗戦、そして課題。
この3年間をどう使うかは自分次第だった。
目の前にいる玲於奈のやけにキラキラした大きな目を見て、質問する。
「学年30位って何?」
「中間テスト。全教科総合で30位以内」
「十王寺、俺さあスポーツ推薦…」
「匡希なら出来る」
私立青羽学院では、定期テストで学年の上位30位以内は廊下に張り出されるらしいが、まだ1年生の一学期で、匡希も、おそらく他の1年生も自分の頭の出来がこの学校でどの程度通じるのかはわからなかった。
玲於奈は別だ。
玲於奈は入学式で1年生の代表として挨拶した、つまり入学試験で1位だったという事だ。
「匡希が30位以内に入ったら付き合おう」
「センパイ、定期テストで学年30位以内って厳しいッスか」
匡希は翌日の寮での夕食を、バスケットボール部の先輩と同じテーブルで食べた。
「イチは何組?」
「3組ッス」
「掲示されんのはほとんど1、2組だろ。なんでそんな事聞くんだよ」
「かわいい子に付き合ってって頼んだら、30位以内ならいいって言われたんで」
「お前それ、本気にしてんのか。体よく振られたんだよ」
「すげぇかわいいから諦めきれない」
「脈は?」
「キスはしました」
おおーと感心したような声が先輩たちからもれた。
「何回くらい?」
「回数?わかんないけど1時間くらいス」
「え、イチってひょっとして童貞じゃないの」
「違います」
その場の空気が固まった。
「ごめん、俺たち全員童貞だからアドバイスできねえわ」
「いや、そっちはいいんで、定期テストのアドバイスください」
放課後の補習クラスはスポーツ推薦には出席は不可能で、始業前の補習クラスもあるがこちらも朝練で無理だった。
仕方なく先生に相談しに行くと、追加の課題を出してくれた。
「大学でバスケしたいんで学力も上げておきたいんです」
「一位!志がたかいのはいいことだ!」
毎日、部活が終わって食事をし、風呂から出てから寝るまで食堂で宿題と追加の課題をやり、筋トレもして、朝も朝食の準備をしている音を聞きながら課題を朝練までの1時間やった。
食堂でやっていると、わからない所を聞くことが出来て、センパイたちも同級生も皆それなりに頭のいい事に気がつく。
一学期の中間テストが始まり、何が何だかよくわからないうちに終わった。
最後の試験が終わり、その後の部活は爽快で、夏の気配を感じながら体育館を思う存分駆け回った。
「イチ、今週末の試合出すからな。赤点取るなよ」コーチから言われて、急に不安になる。
マネージャーから渡されたユニフォームを持って帰り、試合で着るパワータイツや靴下も用意して、バッシュの靴紐もチェックした。
部屋をノックする音がする。
「ハイ」
「匡希?入っていい?」久しぶりに玲於奈がやって来た。
寝る前にたまに顔を出して、キスしたりハグしたりしていたが、試験期間は顔を見なかった。
「新しいバッシュ買わないとな…」
中3の終わりに買ったバッシュはくたびれてきていた。
「足大きいね」
「30センチ。水泳部はどう」
「今日、金曜日だから夜10時までプールの開放日なんだ。これからまた泳いでくる」
青羽学院の屋内温水プールは月に何度か夜まで開放している。
十王寺は白い上着の裾をめくり、ジャージの腰のあたりを少しずらして、裸のおなかと競泳パンツをチラと見せた。
「十王寺わざと?それとも本当に泳ぎに行く?」
「玲於奈って呼びなよ」
「玲於奈」間近で顔を見て呼ぶ。
「匡希は他に好きな子できた?」
「なんで」
「サクラが匡希の話ばっかりする。凄く上手いしかっこいいし優しいんだって」
サクラというのは新しく入ったマネージャーのうちの一人だ。
「ヤキモチ?マネージャーとは何もねーけど」
「違う」
「さっきの水着見せて」
玲於奈の白い上着のチャックを下ろす。その下は上半身裸だった。
「なんで裸なの」
「別に…ラッシュガードだから」
胸元にキスして、ラッシュガードを脱がせ床に落とした。
ジャージも脱がせて、競泳パンツだけの玲於奈と向かい合わせに座る。
「玲於奈、キスしてもいい?」
返事を待たないでキスした。唇を合わせるキスまでは可。それ以上はまだだめだ。
「匡希は僕のことつまんない?」
「ん?」玲於奈が匡希の手をつかんで胸にあてた。
「学校にはかわいい女の子がたくさんいるから」
「そんなことで悩んでんの。30位以内になったら付き合おうって言ったのそっち」
「何もさせないから嫌になった?」
「嫌なわけ無い。来週定期テストの結果がわかる。もし、30位以内なら俺と付き合おう。俺の理性凄くない?普通好きな子がこの状態で来て、そんなかわいいこと聞かれたら100%やるだろ」
不安そうな玲於奈の顔を両手で挟んでキスした。
「玲於奈は俺が30位以内に入れないと思って泣いてる?」
涙目は決壊して、もう玲於奈は普通に泣いていた。
「みんなが言うんだ。30位以内はほとんど1組と2組。他のクラスは無理だって」
「自分で30位以内って言って、自分で泣いちゃうのか」
「匡希と毎日話して、たまにキスしてたら大好きになった」
「それでこんなエロい格好して来たんだ」
玲於奈は頷いた。
「だって試験の結果が出て駄目だったら…」
「駄目でもあきらめない。そのエロいテンションをキープしておいて」
「十王寺ってクラスでどんな感じ?」
「玲於奈は人気あるよ。顔も性格もいいもん」
二人はいったマネージャーのうちの一人、ありすが言った。
土曜日の試合に、体育館のギャラリーに玲於奈の姿があり、周りには何人かの女の子が集まっている。
アップも終わり、試合が開始され、ユニフォームを着てベンチに入る。
これは公式戦だった。何としてでも勝たねばならない。
試合の後の後片付けとミーティングを終わらせて帰って来て、急いで食事と風呂を済ませ、また談話室で先輩四人と今日の試合の映像を見ながら話をして、部屋に戻ってきたのは10時過ぎだった。
「疲れた?」
「いや、出番そんなに無かったから」
「活躍してたね」
「負けたら意味ないだろ」
「また応援に行っていい?」
匡希はベッドに座った玲於奈に抱きついた。
「負けたくないって凄く思うんだ」
「わかるよ」
「また観に来てほしい。次は勝つ」
玲於奈の髪からは微かにプールの塩素のにおいがした。
玲於奈は部屋に戻り、匡希は寮の部屋を出て一階へ行った。
玄関脇のささやかなスペースが、運動部所属の寮生のためのスペースになっていて、ヨガマットを敷きストレッチをしてから軽く筋トレをした。
今日、第四クォーターで投入されて一気に10得点以上稼いだ。
それでも重点的にマークされてからは差を縮めきれず負けた。
学校は何を期待して自分を寮の費用を出してまでここへ呼んだのか、よく考えねばならない。
話し合いで言われた。
単に勝てばいいというものではない。君個人の成長を見たい。君は必ず日本代表になる。青羽は文武両道をモットーにしていて、成績にも一定の基準がある。何事も無駄にはならない。寮生活においては、すべての時間を自分のために使えると思って欲しい。
玲於奈の無謀とも言える30位以内という目標は非常に意味があったと匡希は思った。
寮生活での時間はすべて自分のための時間で、どう使うかは自分次第。
勉強に使ったのは一日のうちのたかが二時間半から三時間。だがこの一ヶ月は格段に勉強に対する意識が高まり、授業も有意義になった。
時間に対する意識が高まった事で部活の練習に対しても集中力が上がり、部活ノート、ミニバスの頃からつけている記録にもそれが現れている。
今日の敗戦、そして課題。
この3年間をどう使うかは自分次第だった。


