イジメから逃げて、幸せの場所を探しながら

「ねぇ、少し歩かない?」
 湖の周りは散歩道として整備されており、ある程度歩いていけるみたいだった。俺達は全く関係のない他愛のない話を重ねてゆっくりと地の感触を確かめるように歩いた。お互いに分かっているように本題は話さなかった。きっと今ではないのだろう。
 ゆっくりと進んでいき、十分程度歩くと霧の中から三角屋根のレストランが見えてくる。鳥井はそれを元気よく指差した。
「ここでご飯にしようよ。私、お腹すいた」
 俺も同じだったので鳥井の提案に頷いて了承する。
 レストランの中に入ると真新しい木の匂いに包まれた。もしかしたら、出来て間もない店なのかもしれない。思っていたよりも広く開放感があり、天井が高くシーリングファンが数個ゆっくりと回っている。
 お客は俺達しかおらず貸し切り状態だった。好きな所に座って良いとの事だったので、一番奥のテーブルを選んで座った。
 お互いに注文し終わると俺から話し始めた。いよいよ本題だ。
「俺と別れてからどうしてたんだ?」
「知りたい?」
 鳥井は勿体ぶった。
「まぁ、多少はな」
「うん。青木と別れてから、北の地に行こうと思って。そのまま電車で今度は北に向かっていったの」
「どうして北の地に?」
「だって、自分探しをする場所なんでしょ?」
「そういえば、そんな事話したな」
 あの時は体調が悪くて意識が朦朧とした中での会話だったので、北の地に行ったという考えに至らなかった。南の島ではなくて初めからそっちに向かうべきだった。
「うん、でも途中でおばあちゃんの事を思い出して。行きがけ寄れそうだから行ってみたの。おばあちゃんなら話を聞いてくれるかもって思って」
 確かにそれは分かる気がした。話すつもりなんて無かったのに、俺も全て話してしまったからな。
「おばあちゃん、私の話を全部聞いてくれて、抱きしめられて。とっても安心した。その時に青木の事も話したの。話してみて、冷静に考えて悪い事したなって思えてきて。ちゃんと話を聞かなかったね。ごめん」
「いいよ。お互い様だ。俺もちゃんと話して無かったからな」
「おばあちゃん、もう学校行かなくていいよって言ってくれたの。すごく嬉しかった。それからお母さんにも話をしてくれて。もう青木も知っているかも知れないけれど、私、おばあちゃんの所に住んで、別の高校に通う事になったの」
「ああ、聞いたよ。良かったな」
「ありがとう」
 鳥井は本当に楽しそうに笑った。
「住む所も、通う学校も決まった。安寧の地はきっと見つかった。けれども、虐めの一件とこの旅で自分を見失ってしまった気がして。新しい学校には編入手続きとかで通うまでにまだ時間があったから、おばあちゃんに頼み込んでこの北の地にやって来たってわけ。私、自分をこの地で見つけたい」
「成程ね」
「今度は青木の番だよ」
 俺は息を飲んだ。
「どうして私の制服取ったの?」
 一瞬黙ってしまったが、全部話すと決めてやって来たので、正直に話す事にした。
「帰る場所が必要だと思った。お互いに、まだ帰れる場所が。決してやましい感情じゃない」
 全て本当の事だが、言い訳のようにも聞こえた。何処まで鳥井に伝わったか心配になる。
「それって、私の事を想っての事なの?」
「ああ、そうだ」
「そうなんだ。でももう要らないから、記念に青木に上げるよ」
「いや、俺もいらない」
 そう返すと鳥井は小さく笑った。
 ここで、注文した料理はやってきて、お互いに話すのを止める。店員が去ったのを確認すると、鳥井は話を再開させた。
「話してよ。今までの事、全部」
「何について聞きたい?」
「今更、分かってるでしょ?青木が旅に出た理由だよ」
「長くなるぞ」
「そういうの、いいから。分かってるから。早く」
「そう急いで話すようなものじゃないのだが……」
 俺は鳥井に今までの経緯を全て話した。鳥井の祖母に話した内容と重複していた為、整理がついていて、すらすらと話す事が出来た。鳥井の祖母がそこまで見越していたのだとしたら、本当にすごい人物だ。
 山崎の件は気が重くなりながらも、誤魔化しても仕方がないので全て話す。鳥井の表情を時々確認したが、ただ黙って聞いていたので俺も一気に話してしまう事にした。