全て話終えるのに、どのくらいの時間を要しただろうか。多くの出来事をつらつらと話し、まとまりもないので、時間系列も前後したので恐ろしく時間が掛かってしまったように思えた。
時間を確認する術もなく、今までこんなにも話した事がないので、体感時間は麻痺してしまい、終わった時にはどのくらい長く話していたのか分からなくなってしまっていた。けれども、コーヒーは冷たくなってしまっていたので、相当の時間が経過した事は確かであった。
「そう……」
全てを聞いた鳥井の祖母は重く口を開いた。
「イジメる側とイジメられる側の境界線は紙一重よ。どちらも突出した所が無いと起きないのよ。一歩違えば貴方とミチルは立場が逆だったかもしれないわね」
それは、どういう意味だというのだろうか。
「まずはお礼を言わせて。貴方はミチルの命を救ってくれたわ。ありがとう」
鳥井の祖母は座ったまま深々と頭を下げた。
「いえ、そんな、ただ咄嗟に身体が動いただけです」
大したことはしていない。
「それでも貴方は命を一つ救ったの」
その言葉に俺は息を呑んだ。
「貴方は一人の人間を死に追いやってしまったかも知れないけど、でも一人の命を救ったのも確かなのよ。それでは駄目なのかしら?罪滅ぼしにならない?」
「ダメだとかそういう事では無いんです。俺は間違えてしまったんですよ。もう、戻れない。何をしても死んだ人間が生き返る事はないんです」
鳥井の祖母はゆっくりと首を横に振った。
「人は生きていく中で沢山の過ちは犯すわ。でも、犯したらそれでおしまいってわけではなくって人生は続いていくの。その後どうやって償い、修正していく方が重要じゃなくって?特に貴方はまだ若いわ。いくらでもやり直しがきく」
「人を死に追いやってもですか?」
「ケジメはいくらでもあるわ。どんな事でもね。ミチルには貴方が家出をした経緯は話したの?」
「いえ、言えなかったんです」
そう、言わなかったのでは無い。言えなかったのだ。
「なら、伝えてあげて。あの子、心配してたから」
鳥井が?俺の事を?そんなイメージが無いので意外だった。それに制服を隠し持っていた事を知って、幻滅されていると思っていたのに。
「貴方は帰る所、ある?」
「分かりません。もう帰る所はないかもしれません」
「一度、帰ってみたら。心配しているかも」
「心配なんてされてませんよ」
捜索願が出されている様子もなかった。心配されていないから、今の今まで旅を続けられてきたのだと思う。
それなのに鳥井の祖母は否定した。
「そんな家族いないわ。一度帰ってみて。駄目ならまだ、ここに来なさいな。そしたら私の牧場を手伝ってもらうから。そこで働きながら、ゆっくりと答えを探すのもいいと思う」
そんな未来なんてやってこない事を分かっているような言い方だった。しかし、その言葉で、俺の心の中のあったわだかまりがすっと消えたような気がした。頼れる所が出来た。その事で安心したのかもしれない。
もう、こんな当てのない旅を続けなくてもいいのかもしれない。ここが俺の幸せになれる場所なのだろうか。
けれども、まだ、今じゃない。
「ミチルの事、追うの?」
鳥井の祖母が聞いてくる。それに対して俺は迷わずはいと答えた。
「二、三日で戻ると思うから、ここで待っていてもいいのよ」
返事などもうすでに分かっているかのような聞き方だった。
「追いかけます。今何処に居るのか教えて下さい」
まだ鳥井との旅が終わったわけではない。終わらせなければいけない。それは旅の中でだ。鳥井もそれを分かってるから、再度旅に出たのだろう。
ここに連絡してみてと鳥井の祖母から一枚の紙を渡される。確認すると電話番号が記載されており、携帯端末のものだった。
「ありがとうございました。お世話になりました」
そう言いながら立ち上がる。もう、一刻も無駄には出来ない。最終バスの事もあるし、もたもたとしていたら明日になってしまう。
「あの子が羨ましいわぁ。私もこんな風に情熱的に追いかけられてみたいわ」
鳥井の祖母のその言葉を分からないフリをして、再度お礼を言うと、家を飛び出した。
バス停に向かう最中、携帯端末の電源を入れて、紙に書かれた番号を入力していく。一瞬の緊張と戸惑いがあったが、そんな悠長な事をしていられなかった。
数回コールの後、電話が繋がる。
「……はい、もしもし?」
受話器から聞こえてきたのは間違いなく鳥井の声だった。
「俺だ。青木だ」
名乗ってから、変な別れ方をした事を思い出す。すぐに切られてしまうのではないかと思ったけれど杞憂だった。
「やっぱり青木だ。この携帯端末に掛けてくるって事はおばあちゃんの所に行ったのね」
「ああ、そうだ」
「会って、話がしたい」
鳥井から言われるとは思わなかったので驚いてしまう。でも、俺の方も最初から――。
「そのつもりだ」
会って話すのなら、ここで話す事は無いもない。それは鳥井も同じみたいで、最低限の日時と待ち合わせ場所のやりとりを行うと、すぐに電話は切れてしまった。
一方的だったが、嫌という感じでは無かった。少なくても、最後にホテルで別れた時のような混乱した様子もない。鳥井は答えを見つけたという事なのだろうか。
次に行く場所が決まる。北の地だ。これが最終地点となるのだろうか。分からないが、もう行くしかないだろう。
時間を確認する術もなく、今までこんなにも話した事がないので、体感時間は麻痺してしまい、終わった時にはどのくらい長く話していたのか分からなくなってしまっていた。けれども、コーヒーは冷たくなってしまっていたので、相当の時間が経過した事は確かであった。
「そう……」
全てを聞いた鳥井の祖母は重く口を開いた。
「イジメる側とイジメられる側の境界線は紙一重よ。どちらも突出した所が無いと起きないのよ。一歩違えば貴方とミチルは立場が逆だったかもしれないわね」
それは、どういう意味だというのだろうか。
「まずはお礼を言わせて。貴方はミチルの命を救ってくれたわ。ありがとう」
鳥井の祖母は座ったまま深々と頭を下げた。
「いえ、そんな、ただ咄嗟に身体が動いただけです」
大したことはしていない。
「それでも貴方は命を一つ救ったの」
その言葉に俺は息を呑んだ。
「貴方は一人の人間を死に追いやってしまったかも知れないけど、でも一人の命を救ったのも確かなのよ。それでは駄目なのかしら?罪滅ぼしにならない?」
「ダメだとかそういう事では無いんです。俺は間違えてしまったんですよ。もう、戻れない。何をしても死んだ人間が生き返る事はないんです」
鳥井の祖母はゆっくりと首を横に振った。
「人は生きていく中で沢山の過ちは犯すわ。でも、犯したらそれでおしまいってわけではなくって人生は続いていくの。その後どうやって償い、修正していく方が重要じゃなくって?特に貴方はまだ若いわ。いくらでもやり直しがきく」
「人を死に追いやってもですか?」
「ケジメはいくらでもあるわ。どんな事でもね。ミチルには貴方が家出をした経緯は話したの?」
「いえ、言えなかったんです」
そう、言わなかったのでは無い。言えなかったのだ。
「なら、伝えてあげて。あの子、心配してたから」
鳥井が?俺の事を?そんなイメージが無いので意外だった。それに制服を隠し持っていた事を知って、幻滅されていると思っていたのに。
「貴方は帰る所、ある?」
「分かりません。もう帰る所はないかもしれません」
「一度、帰ってみたら。心配しているかも」
「心配なんてされてませんよ」
捜索願が出されている様子もなかった。心配されていないから、今の今まで旅を続けられてきたのだと思う。
それなのに鳥井の祖母は否定した。
「そんな家族いないわ。一度帰ってみて。駄目ならまだ、ここに来なさいな。そしたら私の牧場を手伝ってもらうから。そこで働きながら、ゆっくりと答えを探すのもいいと思う」
そんな未来なんてやってこない事を分かっているような言い方だった。しかし、その言葉で、俺の心の中のあったわだかまりがすっと消えたような気がした。頼れる所が出来た。その事で安心したのかもしれない。
もう、こんな当てのない旅を続けなくてもいいのかもしれない。ここが俺の幸せになれる場所なのだろうか。
けれども、まだ、今じゃない。
「ミチルの事、追うの?」
鳥井の祖母が聞いてくる。それに対して俺は迷わずはいと答えた。
「二、三日で戻ると思うから、ここで待っていてもいいのよ」
返事などもうすでに分かっているかのような聞き方だった。
「追いかけます。今何処に居るのか教えて下さい」
まだ鳥井との旅が終わったわけではない。終わらせなければいけない。それは旅の中でだ。鳥井もそれを分かってるから、再度旅に出たのだろう。
ここに連絡してみてと鳥井の祖母から一枚の紙を渡される。確認すると電話番号が記載されており、携帯端末のものだった。
「ありがとうございました。お世話になりました」
そう言いながら立ち上がる。もう、一刻も無駄には出来ない。最終バスの事もあるし、もたもたとしていたら明日になってしまう。
「あの子が羨ましいわぁ。私もこんな風に情熱的に追いかけられてみたいわ」
鳥井の祖母のその言葉を分からないフリをして、再度お礼を言うと、家を飛び出した。
バス停に向かう最中、携帯端末の電源を入れて、紙に書かれた番号を入力していく。一瞬の緊張と戸惑いがあったが、そんな悠長な事をしていられなかった。
数回コールの後、電話が繋がる。
「……はい、もしもし?」
受話器から聞こえてきたのは間違いなく鳥井の声だった。
「俺だ。青木だ」
名乗ってから、変な別れ方をした事を思い出す。すぐに切られてしまうのではないかと思ったけれど杞憂だった。
「やっぱり青木だ。この携帯端末に掛けてくるって事はおばあちゃんの所に行ったのね」
「ああ、そうだ」
「会って、話がしたい」
鳥井から言われるとは思わなかったので驚いてしまう。でも、俺の方も最初から――。
「そのつもりだ」
会って話すのなら、ここで話す事は無いもない。それは鳥井も同じみたいで、最低限の日時と待ち合わせ場所のやりとりを行うと、すぐに電話は切れてしまった。
一方的だったが、嫌という感じでは無かった。少なくても、最後にホテルで別れた時のような混乱した様子もない。鳥井は答えを見つけたという事なのだろうか。
次に行く場所が決まる。北の地だ。これが最終地点となるのだろうか。分からないが、もう行くしかないだろう。

