イジメから逃げて、幸せの場所を探しながら

 今いる所から遠い場所だったので、その日のうちに電車で行ける所まで行き、頃合いの良い所でネットカフェに一晩泊まる。次の日は早朝から移動を始めたのだが、鳥井の祖母が住んでいる最寄りの駅に着いたのは昼過ぎの事であった。
 降り立った瞬間に、本当にここで間違いないのかと疑った。それほどまでに田園風景が広がっていた。これほどまでの田舎にはこの旅の最中に訪れた事がなかった。
 駅は無人で駅員は誰もいない。自動改札口だけは唯一付けられていて、そのハイテクさが周囲と浮いていた。
 改札口を抜けて周囲を確認する。一応、バスロータリーはあるものの簡素なものだった。その他には何もなく、どう見ても泊まれるような場所はなさそうだ。あまり遅くならない方がいいかもしれない。
 バスの時刻表を確認する。信じられないほど空白が目立ち、多くても一時間に一本。少ないと二時間以上も来ない場合もあった。
 今の時間だと一時間以上も待つ事になる。タクシーを利用しようと思ったが、やってくる気配すらなかった。
 最寄りの駅からかなり距離があった為、歩いていくのは困難だろう。おとなしく待つほか無さそうだ。
 備え付けられている壊れかけで汚れているベンチに座ると何となく辺りを見渡した。ゆっくりと時間が流れていくのを感じた。こういう場所はなるべく避けてきた。都会かそこに近い所ばかりを意識して点々としてきた。
 その為かこの風景がとても新鮮に感じた。まるで気持ちばかりが先行してしまっている俺に落ち着けと言っているかのようだった。
 今はどうする事も出来ない。出来ないのならば、ゆっくりと落ち着くのもいいのかもしれなかった。
 ゆっくりと深呼吸を行う。新鮮な空気が肺を満たして心まで洗われた気分となる。数度繰り返し気持ちに余裕が出来た所で、せっかくなので本は開かず周りの景色を見て過ごす事にした。
 バスがやって来たのは時刻通り一時間後だったが、思っていたよりものんびりと出来て待つのも苦に感じなかった。地方特有の慣れない支払いに戸惑いながらも、何とか乗り込み、それから揺られる事、三十分。田園風景を奥に進んでいって、さらに緑が深くなっていく。
 降り立つ頃には、周りに人工物が何もないような場所になっていた。本当にこんな所に鳥井の祖母は住んでいるのだろうか。
 目的のバス停で降りると鞄の中から数枚の紙を取り出す。鳥井の祖母が住んでいる家周辺の地図と行き方がプリントアウトされたものである。ネットカフェで事前に印刷してきたものだ。それを確認した所、道のりは間違えてなさそうだ。さらにここから三十分くらい歩かなければいけないらしい。急いだほうが良さそうだ。夕刻の最終バスに乗り込まないと暗闇の中で何時間も駅まで歩かなければいけなくなる。それだけは避けなければ。
 舗装されていない道を進んでいくと、遠くから動物の声が聞こえ始めてきた。近くに牧場あたりがあるのかもしれない。もしかしたら鳥井の祖母の家が牧場を経営しているのかと思ったが地図を確認すると、目的の家はまだまだ遠く違うらしい。
 牧場をそのまま通りすぎてさら進んでいくと、ぽつんと平屋が見えてきた。他に家は無いし住所的にあそこで間違い無いだろう。
 玄関に近づき表札を確認する。生徒手帳に記されていた鳥井の祖母と苗字と同じだった。