彼女の名前は鳥井と言うらしい。
ちょっとでも時間稼ぎになればとやってきた電車に一緒に乗り込む。そこで鳥井から聞いた話は衝撃的であった。
「虐められてたの。学校で」
つらつらと、鳥井が学校で受けていた仕打ちを聞いていく。それだけで、辛くなった。聞いただけでそれならば、実際に受けた側としてはどのくらいの衝撃だったのかは測り知れなかった。
鳥井の姿が一気に山崎と重なった。あいつもこんな思いだったのか。こんな思いで死んでいったのか。胸が苦しくなり、呼吸がしづらくなっていく。
俺が死ぬのを止めたから良かったものの、そうしなかったら鳥井は死んでいたのだろう。
だが、危険な事には変わりはない。鳥井は一度自殺しようとしたのだから。一度しようとした事は環境が変わらない限り何度でも行うだろう。話を聞いていて、鳥井には突発的に何かを行う危うさがあるのを感じた。俺が近くで守らなければいけないと思った。
しかし、出過ぎた考えなんじゃないかと思い直す。虐める側の人間が、人を死に追いやった人間が虐めた奴の傍にて守るだなんて、なんておこがましい事なのだろうかと。完全に自己満足の領域で、少しでも己の罪を軽くしたが為の思考だった。
それでも、自己満足だったとしても目の前の鳥井の命だけは守らないとだ駄目なのだろう。
もう、もう誰も死なせたりなんてしない。
俺は鳥井を監視する事を決めた。
「それで君は、どうして旅をしてるの?何か逃げ出したの?私と同じ?イジメられたの?」
「いや……俺の事はいいよ」
とてもじゃないけれど、鳥井には話せなかった。俺が虐める側の人間である事を。醜い人間である事を。
上手く誤魔化せるとは思っていない。疑問に思われつつも、真実を話さなければ、それでいい。俺と鳥井の関係はそれで良かった。
そのまま、大型ショッピングモールへと連れていき、目立つ制服から私服に着替えさせる。その時に、鳥井は今まで着ていた制服をゴミ箱へと捨ててしまった。いきなりの行動に俺は戸惑ってしまう。
「何を……捨てたんだ?」
「制服。もう、いらないもの」
「どうして?」
「どうしてって。だってもう要らないじゃない。あの場所に戻ないんだから。あの学校に。あんなイジメられる場所に。だから、もういいの」
「だからって捨てることないだろ?」
「こんな服持ってるより、もっとお洒落な服を持っていたいわ」
確かに正論だった。何も言い返せない。この旅で制服なんて着ないからただのお荷物だろうし、鳥井にとっては虐められていた学校で着ていた心が死んでいた時の白装束なのだろう。けれども、駄目だと思った。
ここで制服を破棄してしまえば、戻る場所を失ってしまう。そこで俺はトイレに向かうと見せかけて、ゴミ箱に戻って漁って回収する事にしたのである。
フードコート手前で鳥井と別れるとすぐさま、制服が捨てられたごみ箱へと向かう。
手を突っ込み、中を漁り目的の物が見つかると黙ってリュックの中に詰め込んだ。通行人が何人か見ていたが構やしない。遠くから見たら黒い物体にしか見えないし、もう二度と来ない土地だから不審がられても問題なかった。
そのまま、何食わぬ顔で戻ったのである。
決して下心があったわけではなかった。けれども結果としてそう思われてしまったので、この選択は正しくなかったのだろう。
鳥井と共に段ボール部屋での生活を始めると、今までの経験を全て伝える事を決めた。たとえ急ごしらえで、問題を先延ばしにしているだけだとしても、今死んでしまうよりもマシだろうと思ったのである。
鳥井の住んでいる地域から離れ、しばらく俺と一緒に公園で過ごし、今までとは違う環境で精神の回復を待つことにした。
幸いにも鳥井は以前に日雇いバイトに登録した事があった為、金銭面の問題は何とかなった。
俺はしばらくバイトはせずに、鳥井の行動を見張る事にした。隔てるものは段ボール一枚分しかなかったので、行動は手に取るように分かった。
バイトをし始めるとその場所までついていき、きちんとバイトを行なえているか遠くから監視していた。
我ながら気持ち悪いし、一歩間違えばストーカーなのだろう。いや、もうストーカーと言っても過言ではない。
しかし、これで鳥井が死ぬのを防げるのなら、それで構わないと思ったのである。その間、俺はバイトを行わなかった為、今まで貯めていた貯金はどんどんと減っていった。
鳥井は俺が想像していたよりも段ボール部屋での生活もアルバイトもこなしていったのである。
公園での生活が果たして精神の回復に適しているのかと問われるときっと違うのだろう。いや、返って悪化させたかも知れなかった。だから、鳥井が大きなテーマパークに行きたいと言ってきた時、仕方がないことだと思った。だから、お金も全て肩代わりすることをすんなりと決められたのである。
俺の懐事情的にも厳しいし、返して貰えない可能性の方が高かったが、少しでも生きる希望になれば自殺しようなんて思えないと考えたからである。
一緒に行ったテーマパークは久しぶりでとても楽しかった。しかし、気持ちが高ぶって全てを忘れてしまいそうになった時に、決まって山崎の顔がすっと浮かび上がって来たしまった。しかし、全ては鳥井の為だと我慢する。
これで少しは気分転換になったかと思った。しかし、そう思った矢先に住む場所が決まらず、海の中に入って無理心中しようとしたので、まるで心境は変わっておらず、まだまだ放っておいてはいけない事に気がついた。俺が目を離した瞬間に死に急ぐのではないか。
そんな不安の中、不覚にも俺は風邪で倒れてしまう。床に伏せている間に鳥井がどんな行動をするのか読めなかった。結果、隠していた制服を見られてしまったのである。
体調が優れない事と、時間がなかった事もあって誤解を解く事が出来なかった。
そして、鳥井はホテルから出て行き、現在に至るのである。
ちょっとでも時間稼ぎになればとやってきた電車に一緒に乗り込む。そこで鳥井から聞いた話は衝撃的であった。
「虐められてたの。学校で」
つらつらと、鳥井が学校で受けていた仕打ちを聞いていく。それだけで、辛くなった。聞いただけでそれならば、実際に受けた側としてはどのくらいの衝撃だったのかは測り知れなかった。
鳥井の姿が一気に山崎と重なった。あいつもこんな思いだったのか。こんな思いで死んでいったのか。胸が苦しくなり、呼吸がしづらくなっていく。
俺が死ぬのを止めたから良かったものの、そうしなかったら鳥井は死んでいたのだろう。
だが、危険な事には変わりはない。鳥井は一度自殺しようとしたのだから。一度しようとした事は環境が変わらない限り何度でも行うだろう。話を聞いていて、鳥井には突発的に何かを行う危うさがあるのを感じた。俺が近くで守らなければいけないと思った。
しかし、出過ぎた考えなんじゃないかと思い直す。虐める側の人間が、人を死に追いやった人間が虐めた奴の傍にて守るだなんて、なんておこがましい事なのだろうかと。完全に自己満足の領域で、少しでも己の罪を軽くしたが為の思考だった。
それでも、自己満足だったとしても目の前の鳥井の命だけは守らないとだ駄目なのだろう。
もう、もう誰も死なせたりなんてしない。
俺は鳥井を監視する事を決めた。
「それで君は、どうして旅をしてるの?何か逃げ出したの?私と同じ?イジメられたの?」
「いや……俺の事はいいよ」
とてもじゃないけれど、鳥井には話せなかった。俺が虐める側の人間である事を。醜い人間である事を。
上手く誤魔化せるとは思っていない。疑問に思われつつも、真実を話さなければ、それでいい。俺と鳥井の関係はそれで良かった。
そのまま、大型ショッピングモールへと連れていき、目立つ制服から私服に着替えさせる。その時に、鳥井は今まで着ていた制服をゴミ箱へと捨ててしまった。いきなりの行動に俺は戸惑ってしまう。
「何を……捨てたんだ?」
「制服。もう、いらないもの」
「どうして?」
「どうしてって。だってもう要らないじゃない。あの場所に戻ないんだから。あの学校に。あんなイジメられる場所に。だから、もういいの」
「だからって捨てることないだろ?」
「こんな服持ってるより、もっとお洒落な服を持っていたいわ」
確かに正論だった。何も言い返せない。この旅で制服なんて着ないからただのお荷物だろうし、鳥井にとっては虐められていた学校で着ていた心が死んでいた時の白装束なのだろう。けれども、駄目だと思った。
ここで制服を破棄してしまえば、戻る場所を失ってしまう。そこで俺はトイレに向かうと見せかけて、ゴミ箱に戻って漁って回収する事にしたのである。
フードコート手前で鳥井と別れるとすぐさま、制服が捨てられたごみ箱へと向かう。
手を突っ込み、中を漁り目的の物が見つかると黙ってリュックの中に詰め込んだ。通行人が何人か見ていたが構やしない。遠くから見たら黒い物体にしか見えないし、もう二度と来ない土地だから不審がられても問題なかった。
そのまま、何食わぬ顔で戻ったのである。
決して下心があったわけではなかった。けれども結果としてそう思われてしまったので、この選択は正しくなかったのだろう。
鳥井と共に段ボール部屋での生活を始めると、今までの経験を全て伝える事を決めた。たとえ急ごしらえで、問題を先延ばしにしているだけだとしても、今死んでしまうよりもマシだろうと思ったのである。
鳥井の住んでいる地域から離れ、しばらく俺と一緒に公園で過ごし、今までとは違う環境で精神の回復を待つことにした。
幸いにも鳥井は以前に日雇いバイトに登録した事があった為、金銭面の問題は何とかなった。
俺はしばらくバイトはせずに、鳥井の行動を見張る事にした。隔てるものは段ボール一枚分しかなかったので、行動は手に取るように分かった。
バイトをし始めるとその場所までついていき、きちんとバイトを行なえているか遠くから監視していた。
我ながら気持ち悪いし、一歩間違えばストーカーなのだろう。いや、もうストーカーと言っても過言ではない。
しかし、これで鳥井が死ぬのを防げるのなら、それで構わないと思ったのである。その間、俺はバイトを行わなかった為、今まで貯めていた貯金はどんどんと減っていった。
鳥井は俺が想像していたよりも段ボール部屋での生活もアルバイトもこなしていったのである。
公園での生活が果たして精神の回復に適しているのかと問われるときっと違うのだろう。いや、返って悪化させたかも知れなかった。だから、鳥井が大きなテーマパークに行きたいと言ってきた時、仕方がないことだと思った。だから、お金も全て肩代わりすることをすんなりと決められたのである。
俺の懐事情的にも厳しいし、返して貰えない可能性の方が高かったが、少しでも生きる希望になれば自殺しようなんて思えないと考えたからである。
一緒に行ったテーマパークは久しぶりでとても楽しかった。しかし、気持ちが高ぶって全てを忘れてしまいそうになった時に、決まって山崎の顔がすっと浮かび上がって来たしまった。しかし、全ては鳥井の為だと我慢する。
これで少しは気分転換になったかと思った。しかし、そう思った矢先に住む場所が決まらず、海の中に入って無理心中しようとしたので、まるで心境は変わっておらず、まだまだ放っておいてはいけない事に気がついた。俺が目を離した瞬間に死に急ぐのではないか。
そんな不安の中、不覚にも俺は風邪で倒れてしまう。床に伏せている間に鳥井がどんな行動をするのか読めなかった。結果、隠していた制服を見られてしまったのである。
体調が優れない事と、時間がなかった事もあって誤解を解く事が出来なかった。
そして、鳥井はホテルから出て行き、現在に至るのである。

