また今日も冷えたスマートフォンの画面を光らせた。画面には一通の通知があった。内容は【忘れてた】この一文だけが光々としていた。差出人はクラスメイトの女の子で何に対する【忘れてた】かもわからない。わからないけど、わかりたくもない。
カノジョは私とは違って誰からも好かれそうな明るい子だから私のことなんて忘れていたんだろう。キラキラしたカノジョの中に私はいなかったのかもしれないなと思うと悲しくなるな。私はカノジョに憧れていたのかもしれない。だからこそお友だちになりたいと思った。でも、それすらもう叶いそうになかった。
カノジョと同じ人に恋したから、恋してしまったから。
「私が居なくなるか、それとも、アナタがカレを諦めるか」
私はその時からカレと仲がいいカノジョを許せなくなった。
グチャグチャになりながら私は本音をぶつけた。
嫌われるかもしれないなんてみじんも思わず思いのままに。まっすぐに。メッセージの文面でそのままに。
そこから私は我を取り返しひどく後悔した。後悔ばかりをしたって何も変わらないのに、誰に見せたって笑われもしないのに、何も無い日々に色付けしたってすぐ滲むはずなのに。涙が止まらなかった。友だちになりたかった、その気持ちは嘘じゃない。友情より恋情を優先した結果哀情になって堕ちた。大人になるほど青は霞んでしまうと聞いていたのに。風鈴のよう風にあおられて消えてしまいたかった。文月終わりの暑い悠の空。月の見えない曇り空の下で不味い涙をモノクロのアスファルトに零している。嫌いを振りまいた愛を捨てた私が一番愛を欲しがっていた事に気付いた。
「あぁ、なんであんなことを書いちゃったんだろう」
忘れたい、忘れてほしい。私のことなんか忘れたっていいんだ。
新しい誰かとお友だちに貴女の優しさあげてほしい。こんなにもメッセージ一言でココロが揺らいだのは初めてで自分でも驚いている。
「あぁ、なんてことをしてしまったんだ、もう取り返しがつかなくなったなぁ…」
こんな情けない言葉しか口から出ないような嫌な人になっちゃった。恋なんていつかなくなるものかもしれないのに。
おとぎ話の終わりから抜け出せずに泣いている子供みたい。
『ぷるるるる…ぷるるるるる』
ポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らして震えだした。
「なんだろう、今は誰とも話したくないのに」
画面に表示された番号は知らないもので最近では珍しく電話アプリでかかってきた。
かかってきたし一応出てみて迷惑電話なら切ったらいいや。
『よっ! 元気してるか』
「なんだ、陸か」
『なんだとはなんや』
「いいや、陸でよかったなって」
『なんや喉でも痛いんか?』
「なんで」
『なんか声変やと思ってな』
「別に風邪ひいてへんよ、それよりどうしたの急に電話なんて」
『それがな、おれ父ちゃんの転勤でそっち行くことになってん』
「へえ、え!? なんでまた急な話やんか」
『そやねん、んでしいに電話したんよ』
「大学はどうしたん、そっちでも通っとったんやろ?」
『そこは前期で中退してきた、そんでしいが通っとる大学に転入することにした』
「はぁ!? そんな急に言われても困るわ!」
『おっしゃ! しいへのサプライズ成功や、んで話戻すんやけど急やったのはこっちもそうで父ちゃんが転入認めてくれたのそこだけなんよ悪いな』
「そうなんや、こっちこそ困るなんて言ってごめん」
『しいが謝ることないんよ』
「ハクション!」
『なんやまだ外におるんか、夜は寒いんやぞ。ちゃんと家帰って暖かくやで。ほな、今日は解散や時間とらせて悪かった』
「ちゃんと家帰るよ、詳しくはまた今度」
『助かるわありがとうな、おやすみ』
「おやすみ」
なんだか夢みたいな時間だった、3年ぶりにきいた陸の声はどこか心配の色が見えていた。泣いていたのがバレたのか、何なのか。
しいって呼ぶのあの頃はやめてほしいと思っていたのに、今は少しあたたかい気持ちになった。乙瀬陸。高校の頃の同級生、私のことを唯一しいと呼ぶ。出会った頃は柊さんだったのに。そこから陸が話しかけてくることが増えて気づいたら椎那さん、しいに変わっていたっけね。呼び方が変わるにつれて話し方も柔らかくなっていったっけ。最初の頃は敬語ガチガチで同い年なのにおかしい人だと思っていたけど、私と話すにつれて慣れていったのかクラスメイトとも親交を深めていった。出身が関西に近いということで結構方言が強くてその影響でよく話していた私にも方言が移ってしまい陸と話すときはいつも方言交じりになってしまう。陸の人柄もあって友人はどんどん増えてクラス代表にまで登りつめていた。
陸と話して気持ちスッキリした。家に戻ってまた明日に備えよう。
**
翌朝、私はやっとの思いでスマートフォンを自分で光らせた。そこには大量のカノジョからのメッセージが並んでいた。
『しいな、大丈夫!?』
『おーい、いなくならないで!』
『ちゃんと説明するから!』
『ちょっと一気に送りすぎたね、ごめん』
『また明日、夜に電話かけるね』
『出てくれたら嬉しい』
『おやすみ』
これが送信されてきていた時間はちょうど陸と話していた時間だ。
既読をつけてしまった、せっかく手に持っているんだ返信しておこう。
「おはよう」
「昨日はごめんね、私も気持ちをまっすぐ伝えすぎた。反省してる」
「通話はしっかり出るよ、またかけてくる時間教えて」
よし、なんとか丸く収まりそう。自分が悪いのに安心してしまっている。
カノジョからのメッセージを受け取った日の昼下がり。
『ぷるるるる…ぷるるるるる』
この着信はカノジョからだろうな。
「もしもし」
『もしもし、椎那出てくれてありがとう』
「しっかりと通話出るって言ったからね」
『それでもありがとう』
「私からもありがとう」
『じゃあ早速話し始めるね』
「その前にごめんなさい」
『こちらこそごめん』
「まずは私から話してもいいかな」
『話していいよ』
「まずはあんなこと言ってしまってごめんなさい。私、自分のことしか見えてなかった。」
『こちらこそ椎那の気持ちを知ってたのに。それと、遊びの約束忘れていたのもごめんなさい』
「あぁ、そのことに対しての【忘れてた】だったのね」
『うん、椎那と遊べること楽しみにしていたのにごめんね』
なんだろう、なんだか空っぽだな。言葉が薄い。
言葉に熱がこもってない、冷たい。
「そっか、そうなんだね。もう私カレのこと好きじゃないみたいなんだ。だから深町くんと浅倉さんでお幸せにね、それじゃ」
『え、そんn』
テレレン。
通話を切った、切ってやった。
よし、陸にかけよ。
「ぷるるるる…ぷるるるるる」
『もしもし、乙瀬やけど』
「あ、乙瀬さん。柊ですけど」
『存じ上げております、ご要件は』
「ご要件はない! かけただけ」
『なんや、かけただけかよ。にしても今日は元気やなぁ』
「なんやってなんやねん、私が誰かにかけることなんて珍しいんやで?」
『よく知ってますとも、だからこそ要件がないってのが疑わしいねん』
「あぁ要件あるわ、友だちになりそこねた人の恋路を応援して謝ってきた」
『なんやそれ』
「私この前までちょっとええなぁって思う人が居てな…ってこんな話したらあんた怒りそうやでやめとこ」
『ええなあって思う人になんやねん。告ったんか』
「違う、さっき出てきた友だちになりそこねた人とその人を取り合う?みたいな形になってん。でもな、もうええかなって自分の中で整理できたから終わらせてん」
『そんで謝ったってのはどういうことや?』
「取り合う形に持ち込んで喧嘩みたいなの仕掛けたの私やからそのこと謝ってきた」
『ふーん、そんだけか』
「ふーんってなんや」
『だって終わった話なんやろ、なんで俺が怒るんや。ええ経験になったやろ』
「まぁそうやな」
『なぁここで言うのはちょっと違うかもしれへんけど聞いてくれ』
「改まってなに」
『実はな、俺ずっとしいのこと好きなんよ』
「ほぉ~ん」
『そんでな、俺と付き合ってください!』
「あはははははははは」
『なんで笑うんや、こっちは本気なんやぞ!』
「はぁ〜おもしろ、なんで最後敬語になんのよ。ふぅ、、、いいよ。」
『え、いいの?』
「いいよ、付き合いましょう」
『ズズズッ、ありがとうありがとう』
「何、泣いてんの? こら泣くな、ありがとうを安売りするな。ありがとうは高いんだから」
『うん、ありがとう』
『あ。』
「あ。」
「まぁ、いいか。陸だもんな。私と付き合えたことが泣くほど嬉しいもんね」
『そうだよ、泣くほど嬉しい』
「私が彼女だからってこれまで通り接して。これが最重要だから」
『せっかく付き合えたのにこれまでと変わらずってなんだよ』
「要は話すとき変に緊張しないとか、簡単に言うと私と陸のリズムを崩さないでってことよ。私はそのほうが落ち着くし楽なの、
その話し方もやめないで二人のときはそのままでお願い」
『それは任せとけ』
「よし、ならオッケー。リズム崩れたらリズム治すからね」
『そこはお互いでゆっくりしてけばいいやろ』
「それもそうね、外では私話し方を変えてるからまた陸がこっち来たらまた改めて話しましょう」
『そうだな、来週にはそっちに行くから待っててくれな』
「分かった、待ってる。今日はここらへんで解散しとこうよ、まだ引っ越しの準備してるんでしょ」
『そうやな、声聞けてよかったわ。ありがとう彼女さん』
「あ、リズム崩した! 私ドキドキすることに慣れてないからやめて」
『じゃあ一緒に慣れていこうぜ』
「まぁそれもいいわね、ありがとう。またね」
『おう、またな』
通話終わっちゃった。付き合っちゃった。
ただの同級生だった私たちが恋人になっちゃった。
あんなにもあっさりと、でも確実に。
なんだか私達らしい。そんな新しい関係。
***
それから一週間後の午後
『よぉ、しい!』
「久しぶり、陸!」
私達は駅のホームで待ち合わせをして再開した。
「改めて、乙瀬陸とお付き合いさせていただいています柊椎那です」
『ぬおおおおお!やっぱり標準語のしいも超ギャップあっていいな!』
「何が超キャップなのよ、普通よ普通。てか、恥ずかしいから陸もやんなさいよ」
『改めて柊椎那さんとお付き合いしております乙瀬陸です』
「ふふっ、なんだか変ね。陸が敬語使ってるところ」
『なんでだよ』
「陸も私に言ったじゃない超ギャップってやつよ」
『なんだそれ、ってか先週の通話の時も途中から話し方変えてただろ』
「あ、気づいたの」
『気づいたもないもない、このせいで緊張しながら話してたんだからな』
「あ、私と話すとき緊張しないってやつ早速だめじゃない」
『いいや、だめじゃない。これから慣れていくから任せとけ』
「任せるわ」
『まだ東京来たばっかでなんも知らねえから案内してくれよ、大学の案内も頼む』
「いいわよ、行きましょ」
“ぐぅ~”
「なんだ、お腹すいてんの」
『悪い、しいに会えるのワクワクしすぎて昼飯食べんの忘れてた』
「なんだそれ、じゃあお昼食べてから案内するわね」
『よっしゃ! どこで食べようかな、しいはどこか行きたいとこあるか』
「私? 私はオムライスがいいわね」
『相変わらずオムライス好きだな』
「えぇ好きよ、陸の次にね」
『なんだ、自分はリズム崩されたくないのに崩してくるのかよ』
「違うわよ〜陸が勝手に崩れてるだけ、私の言動にも慣れて行かなきゃこの先長いわよ」
『分かってるって、別れる気なんてさらさらないからな』
「当然でしょ、別れたら絶対後悔するわよ。」
この先もしも、私のことを忘れそうになっても絶対に忘れさせてあげない。一生私に恋い慕ってね。
文月の暑さにあやかりたい、この愛情が冷めませんように。
あなたのギャップも愛してあげるから、私のギャップも愛してね。
カノジョは私とは違って誰からも好かれそうな明るい子だから私のことなんて忘れていたんだろう。キラキラしたカノジョの中に私はいなかったのかもしれないなと思うと悲しくなるな。私はカノジョに憧れていたのかもしれない。だからこそお友だちになりたいと思った。でも、それすらもう叶いそうになかった。
カノジョと同じ人に恋したから、恋してしまったから。
「私が居なくなるか、それとも、アナタがカレを諦めるか」
私はその時からカレと仲がいいカノジョを許せなくなった。
グチャグチャになりながら私は本音をぶつけた。
嫌われるかもしれないなんてみじんも思わず思いのままに。まっすぐに。メッセージの文面でそのままに。
そこから私は我を取り返しひどく後悔した。後悔ばかりをしたって何も変わらないのに、誰に見せたって笑われもしないのに、何も無い日々に色付けしたってすぐ滲むはずなのに。涙が止まらなかった。友だちになりたかった、その気持ちは嘘じゃない。友情より恋情を優先した結果哀情になって堕ちた。大人になるほど青は霞んでしまうと聞いていたのに。風鈴のよう風にあおられて消えてしまいたかった。文月終わりの暑い悠の空。月の見えない曇り空の下で不味い涙をモノクロのアスファルトに零している。嫌いを振りまいた愛を捨てた私が一番愛を欲しがっていた事に気付いた。
「あぁ、なんであんなことを書いちゃったんだろう」
忘れたい、忘れてほしい。私のことなんか忘れたっていいんだ。
新しい誰かとお友だちに貴女の優しさあげてほしい。こんなにもメッセージ一言でココロが揺らいだのは初めてで自分でも驚いている。
「あぁ、なんてことをしてしまったんだ、もう取り返しがつかなくなったなぁ…」
こんな情けない言葉しか口から出ないような嫌な人になっちゃった。恋なんていつかなくなるものかもしれないのに。
おとぎ話の終わりから抜け出せずに泣いている子供みたい。
『ぷるるるる…ぷるるるるる』
ポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らして震えだした。
「なんだろう、今は誰とも話したくないのに」
画面に表示された番号は知らないもので最近では珍しく電話アプリでかかってきた。
かかってきたし一応出てみて迷惑電話なら切ったらいいや。
『よっ! 元気してるか』
「なんだ、陸か」
『なんだとはなんや』
「いいや、陸でよかったなって」
『なんや喉でも痛いんか?』
「なんで」
『なんか声変やと思ってな』
「別に風邪ひいてへんよ、それよりどうしたの急に電話なんて」
『それがな、おれ父ちゃんの転勤でそっち行くことになってん』
「へえ、え!? なんでまた急な話やんか」
『そやねん、んでしいに電話したんよ』
「大学はどうしたん、そっちでも通っとったんやろ?」
『そこは前期で中退してきた、そんでしいが通っとる大学に転入することにした』
「はぁ!? そんな急に言われても困るわ!」
『おっしゃ! しいへのサプライズ成功や、んで話戻すんやけど急やったのはこっちもそうで父ちゃんが転入認めてくれたのそこだけなんよ悪いな』
「そうなんや、こっちこそ困るなんて言ってごめん」
『しいが謝ることないんよ』
「ハクション!」
『なんやまだ外におるんか、夜は寒いんやぞ。ちゃんと家帰って暖かくやで。ほな、今日は解散や時間とらせて悪かった』
「ちゃんと家帰るよ、詳しくはまた今度」
『助かるわありがとうな、おやすみ』
「おやすみ」
なんだか夢みたいな時間だった、3年ぶりにきいた陸の声はどこか心配の色が見えていた。泣いていたのがバレたのか、何なのか。
しいって呼ぶのあの頃はやめてほしいと思っていたのに、今は少しあたたかい気持ちになった。乙瀬陸。高校の頃の同級生、私のことを唯一しいと呼ぶ。出会った頃は柊さんだったのに。そこから陸が話しかけてくることが増えて気づいたら椎那さん、しいに変わっていたっけね。呼び方が変わるにつれて話し方も柔らかくなっていったっけ。最初の頃は敬語ガチガチで同い年なのにおかしい人だと思っていたけど、私と話すにつれて慣れていったのかクラスメイトとも親交を深めていった。出身が関西に近いということで結構方言が強くてその影響でよく話していた私にも方言が移ってしまい陸と話すときはいつも方言交じりになってしまう。陸の人柄もあって友人はどんどん増えてクラス代表にまで登りつめていた。
陸と話して気持ちスッキリした。家に戻ってまた明日に備えよう。
**
翌朝、私はやっとの思いでスマートフォンを自分で光らせた。そこには大量のカノジョからのメッセージが並んでいた。
『しいな、大丈夫!?』
『おーい、いなくならないで!』
『ちゃんと説明するから!』
『ちょっと一気に送りすぎたね、ごめん』
『また明日、夜に電話かけるね』
『出てくれたら嬉しい』
『おやすみ』
これが送信されてきていた時間はちょうど陸と話していた時間だ。
既読をつけてしまった、せっかく手に持っているんだ返信しておこう。
「おはよう」
「昨日はごめんね、私も気持ちをまっすぐ伝えすぎた。反省してる」
「通話はしっかり出るよ、またかけてくる時間教えて」
よし、なんとか丸く収まりそう。自分が悪いのに安心してしまっている。
カノジョからのメッセージを受け取った日の昼下がり。
『ぷるるるる…ぷるるるるる』
この着信はカノジョからだろうな。
「もしもし」
『もしもし、椎那出てくれてありがとう』
「しっかりと通話出るって言ったからね」
『それでもありがとう』
「私からもありがとう」
『じゃあ早速話し始めるね』
「その前にごめんなさい」
『こちらこそごめん』
「まずは私から話してもいいかな」
『話していいよ』
「まずはあんなこと言ってしまってごめんなさい。私、自分のことしか見えてなかった。」
『こちらこそ椎那の気持ちを知ってたのに。それと、遊びの約束忘れていたのもごめんなさい』
「あぁ、そのことに対しての【忘れてた】だったのね」
『うん、椎那と遊べること楽しみにしていたのにごめんね』
なんだろう、なんだか空っぽだな。言葉が薄い。
言葉に熱がこもってない、冷たい。
「そっか、そうなんだね。もう私カレのこと好きじゃないみたいなんだ。だから深町くんと浅倉さんでお幸せにね、それじゃ」
『え、そんn』
テレレン。
通話を切った、切ってやった。
よし、陸にかけよ。
「ぷるるるる…ぷるるるるる」
『もしもし、乙瀬やけど』
「あ、乙瀬さん。柊ですけど」
『存じ上げております、ご要件は』
「ご要件はない! かけただけ」
『なんや、かけただけかよ。にしても今日は元気やなぁ』
「なんやってなんやねん、私が誰かにかけることなんて珍しいんやで?」
『よく知ってますとも、だからこそ要件がないってのが疑わしいねん』
「あぁ要件あるわ、友だちになりそこねた人の恋路を応援して謝ってきた」
『なんやそれ』
「私この前までちょっとええなぁって思う人が居てな…ってこんな話したらあんた怒りそうやでやめとこ」
『ええなあって思う人になんやねん。告ったんか』
「違う、さっき出てきた友だちになりそこねた人とその人を取り合う?みたいな形になってん。でもな、もうええかなって自分の中で整理できたから終わらせてん」
『そんで謝ったってのはどういうことや?』
「取り合う形に持ち込んで喧嘩みたいなの仕掛けたの私やからそのこと謝ってきた」
『ふーん、そんだけか』
「ふーんってなんや」
『だって終わった話なんやろ、なんで俺が怒るんや。ええ経験になったやろ』
「まぁそうやな」
『なぁここで言うのはちょっと違うかもしれへんけど聞いてくれ』
「改まってなに」
『実はな、俺ずっとしいのこと好きなんよ』
「ほぉ~ん」
『そんでな、俺と付き合ってください!』
「あはははははははは」
『なんで笑うんや、こっちは本気なんやぞ!』
「はぁ〜おもしろ、なんで最後敬語になんのよ。ふぅ、、、いいよ。」
『え、いいの?』
「いいよ、付き合いましょう」
『ズズズッ、ありがとうありがとう』
「何、泣いてんの? こら泣くな、ありがとうを安売りするな。ありがとうは高いんだから」
『うん、ありがとう』
『あ。』
「あ。」
「まぁ、いいか。陸だもんな。私と付き合えたことが泣くほど嬉しいもんね」
『そうだよ、泣くほど嬉しい』
「私が彼女だからってこれまで通り接して。これが最重要だから」
『せっかく付き合えたのにこれまでと変わらずってなんだよ』
「要は話すとき変に緊張しないとか、簡単に言うと私と陸のリズムを崩さないでってことよ。私はそのほうが落ち着くし楽なの、
その話し方もやめないで二人のときはそのままでお願い」
『それは任せとけ』
「よし、ならオッケー。リズム崩れたらリズム治すからね」
『そこはお互いでゆっくりしてけばいいやろ』
「それもそうね、外では私話し方を変えてるからまた陸がこっち来たらまた改めて話しましょう」
『そうだな、来週にはそっちに行くから待っててくれな』
「分かった、待ってる。今日はここらへんで解散しとこうよ、まだ引っ越しの準備してるんでしょ」
『そうやな、声聞けてよかったわ。ありがとう彼女さん』
「あ、リズム崩した! 私ドキドキすることに慣れてないからやめて」
『じゃあ一緒に慣れていこうぜ』
「まぁそれもいいわね、ありがとう。またね」
『おう、またな』
通話終わっちゃった。付き合っちゃった。
ただの同級生だった私たちが恋人になっちゃった。
あんなにもあっさりと、でも確実に。
なんだか私達らしい。そんな新しい関係。
***
それから一週間後の午後
『よぉ、しい!』
「久しぶり、陸!」
私達は駅のホームで待ち合わせをして再開した。
「改めて、乙瀬陸とお付き合いさせていただいています柊椎那です」
『ぬおおおおお!やっぱり標準語のしいも超ギャップあっていいな!』
「何が超キャップなのよ、普通よ普通。てか、恥ずかしいから陸もやんなさいよ」
『改めて柊椎那さんとお付き合いしております乙瀬陸です』
「ふふっ、なんだか変ね。陸が敬語使ってるところ」
『なんでだよ』
「陸も私に言ったじゃない超ギャップってやつよ」
『なんだそれ、ってか先週の通話の時も途中から話し方変えてただろ』
「あ、気づいたの」
『気づいたもないもない、このせいで緊張しながら話してたんだからな』
「あ、私と話すとき緊張しないってやつ早速だめじゃない」
『いいや、だめじゃない。これから慣れていくから任せとけ』
「任せるわ」
『まだ東京来たばっかでなんも知らねえから案内してくれよ、大学の案内も頼む』
「いいわよ、行きましょ」
“ぐぅ~”
「なんだ、お腹すいてんの」
『悪い、しいに会えるのワクワクしすぎて昼飯食べんの忘れてた』
「なんだそれ、じゃあお昼食べてから案内するわね」
『よっしゃ! どこで食べようかな、しいはどこか行きたいとこあるか』
「私? 私はオムライスがいいわね」
『相変わらずオムライス好きだな』
「えぇ好きよ、陸の次にね」
『なんだ、自分はリズム崩されたくないのに崩してくるのかよ』
「違うわよ〜陸が勝手に崩れてるだけ、私の言動にも慣れて行かなきゃこの先長いわよ」
『分かってるって、別れる気なんてさらさらないからな』
「当然でしょ、別れたら絶対後悔するわよ。」
この先もしも、私のことを忘れそうになっても絶対に忘れさせてあげない。一生私に恋い慕ってね。
文月の暑さにあやかりたい、この愛情が冷めませんように。
あなたのギャップも愛してあげるから、私のギャップも愛してね。


