序列主義の異能学院

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 木曽が屋敷の玄関で靴を脱ぎ、向きを揃えて端に寄せた。
 オレもそれに倣って木曽の靴の隣に丁寧に並べる。

「この土地は隠蔽の異能力で外部からは認知できなくなっている」

 無言で木曽の後ろを歩いているとふとそんな風に木曽が話し掛けてきた。
 部外者であるオレに与えていい情報だとは思えないが、こうして屋敷に招き入れている時点である程度の信頼は得ているのだろうか。
 それともこの土地に足を踏み入れた時点で外からの助けは望めないぞと脅しているのだろうか。
 いずれにせよオレに戦う力はもう残されていない。

「ここは何をしているところなんですか?」

 妖刀、魔剣、異能。それぞれの分野の実力者が身を隠している土地。
 特別な環境であることに疑いようがないが、実態が見えない。
 木曽はオレの問いには答えず、廊下をすたすたと進むと大広間の戸を開いた。
 中には青髪の女がいた。歳は60後半か70代くらい。座布団の上に正座をして上品にお茶を啜っていた。

「何をボサッと突っ立ってるんだい。早く座りな」

 こちらに有無を言わせぬ鋭い眼光。
 オレは言われるがまま女の正面に腰を下ろした。
 木曽はというと、部屋の隅に移動して遠目にこちらを見ていた。

「私が先代水の魔剣所有者、滝壺梅(たきつぼうめ)だ」

「神楽坂春斗です。滝壺さん——」

「梅さんって呼びな」

 名前の呼ばれ方に強いこだわりがあるのかピシャリと遮られた。
 そう言えば木曽も「梅さん」呼びだったな。

「梅さんと馬場会長はどのようなご関係で?」

「師匠と弟子だよ。それ以上でもそれ以下でもない。裕二は残念だったね」

 そう言って梅がオレの腰に差さっていた水の魔剣を見た。

「ニュースなどですでにご存知かと思いますが、昨夜の一件で馬場会長から魔剣を引き継ぎました。それで梅さんを訪ねるようにと遺言がありまして」

「裕二から話は聞いてるよ。それであんたの実力を測らせてもらった。水の魔剣の後継者が貧弱者だったら話にならないからね。(うしお)(すい)と戦っただろ。あの2人はうちの中でも上位の実力者でね。まあ本領を発揮する前に木曽さんが止めてしまったけれど」

「梅さん、勘弁して下さいよ」

「ははっ、冗談です」

 梅が湯呑みに口をつけた。
 どうやらオレは梅の掌の上で転がされていたらしい。木曽が止めてくれなければ危うく死にかけたが。

「それで、ここは何をしているところなんですか?」

「その質問に答えるにはまず私の質問に答えてもらう必要がある。神楽坂春斗、あんたは反異能力者ギルドについてどう思う?」

 突拍子の無い質問に一瞬脳がフリーズしかけるが、嘘偽りない率直な感想を話すことにした。

「正直に言うとあまり良い印象を持ってはいません。オレの通う学院も襲撃に遭っていますし、異能力に対して否定的な思想を持つこと自体否定はしませんがそれを他に強制しようとするのはどうかと」

「木曽さん、これが普通の人の反応だ」

「でしょうな。マスコミの印象操作の賜物だな」

 梅と木曽がうんうんと頷き合う。
 その様子を眺めていると梅の双眸がギラリと輝き、オレの目を捉えた。

「私たちは世間から反異能力者ギルドと呼ばれている。ここはその本拠地だ。とは言ってもお前さんが持つイメージとは異なる。裕二の遺言を見ただろう?」

「はい」

「異能力者育成学院が隠している地下施設の秘密、あれは事実だ。私たちは奴らが企む最悪のシナリオを阻止するために活動している。組織名は『ZERO(ゼロ)』。最悪のシナリオの回避→シナリオの白紙化という意味から付けられた名だ」

ZERO(ゼロ)……」

 赤羽が「ZERO(ゼロ)の意思」とか言っていたな。組織名だったのか。

「異能を嫌う反異能的な思想を持つ団体は確かに存在する。だが私たちはそれらとは全くの別物だ。最悪のシナリオに関与している3校の背後にいる組織を潰すために活動しているんだが、組織には国が絡んでいてな。思うようにいかないのが現状だ。おまけにマスコミに印象操作されて、異能力を専門的に教える教育機関ばかり狙う私たちが反異能力者ギルドの代表格みたいに扱われるようになったんだ」

「その3校の中には私立鳳凰学院も含まれていますか?」

 今朝のニュースが頭をよぎった。
 鳳凰学院の襲撃。これもZERO(ゼロ)が関係しているのだろうか。

「ああ、もう1つは聖帝虹学園だ。ZERO(ゼロ)の構成メンバーは最悪のシナリオの被害者が多い。潮と翠もそうだ。お前さんも例外ではない。学院に妹を誘拐されたんだろ?」

「なんでそれを?」

「それはZERO(ゼロ)の創設者がお前さんの父親だからだ」

 まるでタイミングを図ったかのように戸が開かれた。
 そこには5年前に夏蓮が誘拐されてから行方を眩ませた実の父、神楽坂四季(かぐらざかしき)が立っていた。