—1—
仙台駅から電車に乗り換えて北上すること1時間30分。
車窓から見える景色も都会のビル群から田舎の田園風景へと変わり、到着したのは無人駅。
「第一村人はなし、か」
駅前は小さな商店街が立ち並んでいたがいずれもシャッターが降りていた。
時刻は14時を回る頃。店仕舞いをするにはまだ早い。
それだけこの地域が過疎化しているということなのだろう。
馬場会長が示した住所は駅から徒歩20分圏内。丘なのか、山なのか、とにかく斜面の上の方にあるみたいだ。
道中、民家がポツポツと点在する程度でコンビニやスーパーなど、生活必需品を販売している店舗の存在は確認できなかった。
インターネットで何でも購入できる時代になったとはいえ、リアルタイムで欲しい物が手に入らないのは不便だな。
そう思ってしまうのもオレが学院での生活に慣れてしまった証拠だろう。
「参ったな」
スマホの地図アプリを頼りに歩き続けていると不思議な現象に遭遇した。
アプリ上の目的地をピンで固定していたのだが、一向に距離が縮まらなくなったのだ。
もう目と鼻の先まで来ているとは思うのだが。
ここら一帯は高い木々に囲まれてはいるものの視線の先に見える民家を目印に距離の足し引きはできるし、舗装された道路、ガードレール、電柱など特に変わった様子は見当たらない。
アプリの不具合という線も疑ったが、アプリを落として再度立ち上げても変化はなく、公式サイトから不具合のアナウンスもされていない。
馬場会長が示した住所はここで合っているはずだ。
となるとこれは認識阻害の異能力か何かで隠されている線が高そうだ。
物は試しだ。
道路に転がっていた石を拾い、人がいないことを確認してから投擲する。
石は木に吸い込まれるようにして飛んでいき、草むらに消えていった。
物理でダメなら異能力だ。
「光粒砲撃」
光の粒を全方向に炸裂させて不自然な箇所を探る。
発散。
すると、木々の隙間から黒い影が飛び出してきた。
黒色のパーカーに身を包み、フードを被っているからはっきりと顔は見えない。
しなやかな身のこなしと女性特有の柔らかい動き。
宙を舞いながら小型ナイフで自身の手首を切り裂くとギリギリ拾える声量でこう呟いた。
「赤棘」
指先から滴り落ちる血液が刀の形に変形。
オレが飛ばした光の粒を斬り払い軽やかに着地した。
「待ってくれ。オレに戦う意思はない」
「先に仕掛けてきておいてその言い分が通用すると思うの?」
パーカーの左胸に描かれた赤い三日月のマーク。
少女の纏っている雰囲気がどことなく暗空と似ている。
「人を探していたんだ。ここの住所を尋ねるようにと言われて来たんだが、どうも辿り着けなくてな。あの手この手で試行錯誤していたところだ」
「だから攻撃に悪意はなかったと?」
「ああ。信じてもらえないかもしれないが事実だ。悪かった」
そもそもの話として、周囲に人がいないか確認したつもりだったが、その網にかからなかったということはこの少女は気配を消していたということになる。
いつから見られていた?
「腰に差さってるの魔剣だよね?」
魔剣に対する憎悪。
少女の突き刺さる視線が水の魔剣に注がれる。
「だとしたらどうする?」
「排除する」
血液で生成した刀『赤棘』を横に薙いだ瞬間、再び刀が血液へと戻り、弾丸の雨となって襲い掛かってきた。
「鮮血の弾丸」
「光輝な大盾」
即座に盾を展開して攻撃を防ぐ。
重い衝撃が光の結晶を撒き散らすその奥でオーラが跳ね上がった。
少女が腰に差していた刀を抜き、真っ直ぐ向かってきたのだ。
「妖刀・死不鬼」
『光輝な大盾』を斜めに斬り上げて一刀両断。
勢いそのまま中央から突破してきた。
オレは魔剣に手を掛けて、迫り来る妖刀に対して腕を振り抜く。
「水の魔剣・蒼蛇剣」
魔剣を解放させたことで蒼蛇剣の剣身に描かれた蛇の模様が浮き上がり青く輝きを放つ。
「くっ」
体重の乗った一撃にオレは後方に弾き飛ばされた。
所詮は付け焼き刃。
魔剣を継承してからまだ1日も経っていない。
学院の生徒や世界最強の剣士の称号を持つ千炎寺正嗣の戦闘スタイルを間近で見てきたとはいえ、通常の剣と魔剣を扱うのでは話が違う。
まだ異能力だけで戦った方が互角に渡り合えるような気もするが、奥の手の融合の異能力はインターバルの24時間を迎えていない。
「怪しい人間は排除するのみ。魔剣所有者ならなおのこと!」
間合いを詰めて繰り出してくる連撃に必死に食らいつく。
少女の異能力は恐らく血液の操作。
妖刀の能力は不明。
洗練された無駄の無い動きに命を刈り取ろうとする強烈なインパクト。
殺すことに一切の躊躇いがない冷酷な双眸。
暗殺を生業としている闇の組織か何かか?
いずれにせよ普通ではない。
こんな田舎の少女が持っていていいスキルではない。
「その眼、人を殺したことがあるだろ。一体何者だ?」
鍔迫り合いにもつれ込み、少女に揺さぶりをかける。
「私はZEROの意志を継ぐ者。赤羽潮。お前は?」
「神楽坂春斗だ。この魔剣はとある人から受け継いだものだ」
「神楽坂……? そうかお前が隊長の——」
魔剣と妖刀の反発。
押し切られないように両足で踏ん張っていたが、衝撃で地面に亀裂が入った。
蒼蛇剣が小刻みに震え、目の前の少女——赤羽が脅威であると訴えかけてくる。
砕けた地面を避けるように後方に跳び、馬場会長が遺したテキストを思い出す。
【七振り存在する魔剣にはそれぞれ伝説の生物が宿っている。水の魔剣には八岐大蛇が宿っている。魔剣の力を引き出すには八岐大蛇の力を借りる必要がある。そのため信頼関係の構築が最重要課題となる。信頼を勝ち取ることができれば八岐大蛇を顕現することも可能になる。
魔剣を用いた最大技は剣戟。魔剣所有者や妖刀所有者と渡り合うにはこの剣戟の習得が必須となるだろう。
また、水の魔剣の力を発動している間は代償として呼吸ができなくなる。魔剣の使用時間が長引くと水底に沈んでいくような感覚に襲われ、あらゆる感覚が失われていく。最悪の場合そのまま命を落とすこともあり得る。
故に魔剣を用いた戦闘は短期決戦が望ましい】
魔剣の力を引き出すには八岐大蛇との信頼関係が重要と言われても一朝一夕でどうにかなる問題ではない。
現状、魔剣という強力な器を手にして降りかかる火の粉を何とか払っているに過ぎない。
力の引き出し方が分からないのだから仕方がない。
さらに魔剣を振るっている間は酸素の供給が途絶えてしまうため、戦闘のリズムが掴めない。
このままだとジリ貧だ。
「身体強化」
この力量差を埋めるにはフィジカルで補うしかない。
少々強引にはなるが力尽くで突破口を開く。
「その程度で私に並んだつもり?」
自身の身体に極限の負荷を掛けて急加速し、赤羽の懐に潜り込み剣を振るうもあっさりと受け止められてしまった。
動きを止めてはならない。
息が続く限り間髪入れずに左右から削り取るまで。
「何度繰り返そうと剣に魂が込もっていなければ無意味」
「そうか、そうみたいだな」
これまで戦ってきた剣士の立ち回りを模倣しても赤羽にはまるで通用しない。
剣士として力量が上の相手と戦えば何かきっかけが掴めるかと思ったが、そう甘くはなかったらしい。
「なに? どういうつもり?」
蒼蛇剣を鞘に収めたオレを見て困惑した表情を浮かべる赤羽。
「深い理由はない。魔剣にこだわる必要が無いと判断しただけだ。いくぞ。大地の怒り」
地割れを引き起こし、足場を崩壊させる。
啖呵を切ったはいいが昨夜から続く連戦の疲労であまり余力は残されていない。
「くっ」
赤羽が安全な足場を求めて跳び移りながら体勢を整える。
「氷柱吹雪」
距離が生まれたこのタイミングを逃さない。
通常であれば中級かそれ以下に分類される技も消費するエネルギーの量を増加させれば化けることがある。
想像力次第で戦闘の幅は無限に広がる。
猛烈に吹き荒れる吹雪はホワイトアウトを引き起こし、大量に展開した氷柱が追い討ちを掛ける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!」
こちらからではほとんど視認できないが赤羽が妖刀を振り回して凌いでいるのが確認できる。
この視界の悪さでは迂闊に踏み込むこともできないだろう。
盤面を崩し、相手を場に留まらせることに成功した今、あとは刈り取るのみ。
一気に畳み掛ける。
「零龍の隻腕ッ!」
10メートルを超える氷を纏った巨大な龍の片腕。
かつて糸巻を仕留めた鉤爪でとどめを刺す。
「血流暴走! 死不鬼、力を借りる。思う存分血を飲むといい。スイ! 打て!」
吹雪の中で赤羽の妖刀が赤黒く発光した。
妖刀から放たれた斬撃が龍の隻腕と衝突。
刹那、赤羽の叫びを合図に背後の木陰から弓を構えた水色髪の少女が現れた。
「流星水矢・七連」
地を這う七つの矢が一直線に飛んでくる。
敵が赤羽だけだと思い込んで完全に挟まれてしまった。
振り下ろしていた腕とは逆の手を背後に向ける。
「漆黒の影が覆う世界」
異能力の同時発動。
脳内で同時処理を行い、注意を前後で均等に割く。
放たれた七つの矢は影の壁に吸い込まれ、矢を放った少女は迷うことなく全力で間合いを詰めてきていた。
そうこうしている間に妖刀の斬撃が『零龍の隻腕』を断ち切り、白い湯気を発した赤羽が前傾姿勢で突撃してくる。
オレと距離が近いのは赤羽。
それなら優先すべきは妖刀持ちの赤羽だ。
再び蒼蛇剣を鞘から抜き、地面を蹴る。
「水晶の双玉竜ッ!」
対処困難な間を狙った詰ませにきた一手。
後方に出現した2体の水竜。
足を止めることができないこのタイミングを狙われた。
2体の水竜がオレを飲み込もうと口を開き、地面を抉りながら加速する。
オレは正面の赤羽に狙いを定め、魔剣を頭上に掲げながら妖刀に両断されて崩れ落ちた『零龍の隻腕』に一瞬意識を向けた。
「零蛇の双牙ッ!」
巨大な氷の塊が2匹の蛇へと姿を変え、オレと赤羽の左右を通り抜ける。
獲物を咬み殺す鋭い牙を覗かせ、迫り来る水竜と衝突した。
それと同時に赤羽の妖刀とオレの魔剣が激突する。
凄まじい衝撃波が周囲の冷気を吹き飛ばした。
「両者そこまでだ!」
モヤが晴れるように周囲の木々が透き通るように消えていき、白髪の男が姿を見せた。
「木曽さん、いいんですか?」
赤羽が妖刀を下ろし、白髪の男——木曽に問い掛ける。
「潮も翠もギアを上げる前とはいえ、2人の猛攻を防ぎ切ったことに変わりはない。及第点に達していると見ていいだろう。えっと、神楽坂春斗だったな。梅さんに会いに来たんだろ? ついて来い」
この状況もそうだが、聞きたいことが山ほどあったが、オレは木曽に言われるがままモヤが晴れた先に出現した屋敷に向かって歩くのだった。
仙台駅から電車に乗り換えて北上すること1時間30分。
車窓から見える景色も都会のビル群から田舎の田園風景へと変わり、到着したのは無人駅。
「第一村人はなし、か」
駅前は小さな商店街が立ち並んでいたがいずれもシャッターが降りていた。
時刻は14時を回る頃。店仕舞いをするにはまだ早い。
それだけこの地域が過疎化しているということなのだろう。
馬場会長が示した住所は駅から徒歩20分圏内。丘なのか、山なのか、とにかく斜面の上の方にあるみたいだ。
道中、民家がポツポツと点在する程度でコンビニやスーパーなど、生活必需品を販売している店舗の存在は確認できなかった。
インターネットで何でも購入できる時代になったとはいえ、リアルタイムで欲しい物が手に入らないのは不便だな。
そう思ってしまうのもオレが学院での生活に慣れてしまった証拠だろう。
「参ったな」
スマホの地図アプリを頼りに歩き続けていると不思議な現象に遭遇した。
アプリ上の目的地をピンで固定していたのだが、一向に距離が縮まらなくなったのだ。
もう目と鼻の先まで来ているとは思うのだが。
ここら一帯は高い木々に囲まれてはいるものの視線の先に見える民家を目印に距離の足し引きはできるし、舗装された道路、ガードレール、電柱など特に変わった様子は見当たらない。
アプリの不具合という線も疑ったが、アプリを落として再度立ち上げても変化はなく、公式サイトから不具合のアナウンスもされていない。
馬場会長が示した住所はここで合っているはずだ。
となるとこれは認識阻害の異能力か何かで隠されている線が高そうだ。
物は試しだ。
道路に転がっていた石を拾い、人がいないことを確認してから投擲する。
石は木に吸い込まれるようにして飛んでいき、草むらに消えていった。
物理でダメなら異能力だ。
「光粒砲撃」
光の粒を全方向に炸裂させて不自然な箇所を探る。
発散。
すると、木々の隙間から黒い影が飛び出してきた。
黒色のパーカーに身を包み、フードを被っているからはっきりと顔は見えない。
しなやかな身のこなしと女性特有の柔らかい動き。
宙を舞いながら小型ナイフで自身の手首を切り裂くとギリギリ拾える声量でこう呟いた。
「赤棘」
指先から滴り落ちる血液が刀の形に変形。
オレが飛ばした光の粒を斬り払い軽やかに着地した。
「待ってくれ。オレに戦う意思はない」
「先に仕掛けてきておいてその言い分が通用すると思うの?」
パーカーの左胸に描かれた赤い三日月のマーク。
少女の纏っている雰囲気がどことなく暗空と似ている。
「人を探していたんだ。ここの住所を尋ねるようにと言われて来たんだが、どうも辿り着けなくてな。あの手この手で試行錯誤していたところだ」
「だから攻撃に悪意はなかったと?」
「ああ。信じてもらえないかもしれないが事実だ。悪かった」
そもそもの話として、周囲に人がいないか確認したつもりだったが、その網にかからなかったということはこの少女は気配を消していたということになる。
いつから見られていた?
「腰に差さってるの魔剣だよね?」
魔剣に対する憎悪。
少女の突き刺さる視線が水の魔剣に注がれる。
「だとしたらどうする?」
「排除する」
血液で生成した刀『赤棘』を横に薙いだ瞬間、再び刀が血液へと戻り、弾丸の雨となって襲い掛かってきた。
「鮮血の弾丸」
「光輝な大盾」
即座に盾を展開して攻撃を防ぐ。
重い衝撃が光の結晶を撒き散らすその奥でオーラが跳ね上がった。
少女が腰に差していた刀を抜き、真っ直ぐ向かってきたのだ。
「妖刀・死不鬼」
『光輝な大盾』を斜めに斬り上げて一刀両断。
勢いそのまま中央から突破してきた。
オレは魔剣に手を掛けて、迫り来る妖刀に対して腕を振り抜く。
「水の魔剣・蒼蛇剣」
魔剣を解放させたことで蒼蛇剣の剣身に描かれた蛇の模様が浮き上がり青く輝きを放つ。
「くっ」
体重の乗った一撃にオレは後方に弾き飛ばされた。
所詮は付け焼き刃。
魔剣を継承してからまだ1日も経っていない。
学院の生徒や世界最強の剣士の称号を持つ千炎寺正嗣の戦闘スタイルを間近で見てきたとはいえ、通常の剣と魔剣を扱うのでは話が違う。
まだ異能力だけで戦った方が互角に渡り合えるような気もするが、奥の手の融合の異能力はインターバルの24時間を迎えていない。
「怪しい人間は排除するのみ。魔剣所有者ならなおのこと!」
間合いを詰めて繰り出してくる連撃に必死に食らいつく。
少女の異能力は恐らく血液の操作。
妖刀の能力は不明。
洗練された無駄の無い動きに命を刈り取ろうとする強烈なインパクト。
殺すことに一切の躊躇いがない冷酷な双眸。
暗殺を生業としている闇の組織か何かか?
いずれにせよ普通ではない。
こんな田舎の少女が持っていていいスキルではない。
「その眼、人を殺したことがあるだろ。一体何者だ?」
鍔迫り合いにもつれ込み、少女に揺さぶりをかける。
「私はZEROの意志を継ぐ者。赤羽潮。お前は?」
「神楽坂春斗だ。この魔剣はとある人から受け継いだものだ」
「神楽坂……? そうかお前が隊長の——」
魔剣と妖刀の反発。
押し切られないように両足で踏ん張っていたが、衝撃で地面に亀裂が入った。
蒼蛇剣が小刻みに震え、目の前の少女——赤羽が脅威であると訴えかけてくる。
砕けた地面を避けるように後方に跳び、馬場会長が遺したテキストを思い出す。
【七振り存在する魔剣にはそれぞれ伝説の生物が宿っている。水の魔剣には八岐大蛇が宿っている。魔剣の力を引き出すには八岐大蛇の力を借りる必要がある。そのため信頼関係の構築が最重要課題となる。信頼を勝ち取ることができれば八岐大蛇を顕現することも可能になる。
魔剣を用いた最大技は剣戟。魔剣所有者や妖刀所有者と渡り合うにはこの剣戟の習得が必須となるだろう。
また、水の魔剣の力を発動している間は代償として呼吸ができなくなる。魔剣の使用時間が長引くと水底に沈んでいくような感覚に襲われ、あらゆる感覚が失われていく。最悪の場合そのまま命を落とすこともあり得る。
故に魔剣を用いた戦闘は短期決戦が望ましい】
魔剣の力を引き出すには八岐大蛇との信頼関係が重要と言われても一朝一夕でどうにかなる問題ではない。
現状、魔剣という強力な器を手にして降りかかる火の粉を何とか払っているに過ぎない。
力の引き出し方が分からないのだから仕方がない。
さらに魔剣を振るっている間は酸素の供給が途絶えてしまうため、戦闘のリズムが掴めない。
このままだとジリ貧だ。
「身体強化」
この力量差を埋めるにはフィジカルで補うしかない。
少々強引にはなるが力尽くで突破口を開く。
「その程度で私に並んだつもり?」
自身の身体に極限の負荷を掛けて急加速し、赤羽の懐に潜り込み剣を振るうもあっさりと受け止められてしまった。
動きを止めてはならない。
息が続く限り間髪入れずに左右から削り取るまで。
「何度繰り返そうと剣に魂が込もっていなければ無意味」
「そうか、そうみたいだな」
これまで戦ってきた剣士の立ち回りを模倣しても赤羽にはまるで通用しない。
剣士として力量が上の相手と戦えば何かきっかけが掴めるかと思ったが、そう甘くはなかったらしい。
「なに? どういうつもり?」
蒼蛇剣を鞘に収めたオレを見て困惑した表情を浮かべる赤羽。
「深い理由はない。魔剣にこだわる必要が無いと判断しただけだ。いくぞ。大地の怒り」
地割れを引き起こし、足場を崩壊させる。
啖呵を切ったはいいが昨夜から続く連戦の疲労であまり余力は残されていない。
「くっ」
赤羽が安全な足場を求めて跳び移りながら体勢を整える。
「氷柱吹雪」
距離が生まれたこのタイミングを逃さない。
通常であれば中級かそれ以下に分類される技も消費するエネルギーの量を増加させれば化けることがある。
想像力次第で戦闘の幅は無限に広がる。
猛烈に吹き荒れる吹雪はホワイトアウトを引き起こし、大量に展開した氷柱が追い討ちを掛ける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!」
こちらからではほとんど視認できないが赤羽が妖刀を振り回して凌いでいるのが確認できる。
この視界の悪さでは迂闊に踏み込むこともできないだろう。
盤面を崩し、相手を場に留まらせることに成功した今、あとは刈り取るのみ。
一気に畳み掛ける。
「零龍の隻腕ッ!」
10メートルを超える氷を纏った巨大な龍の片腕。
かつて糸巻を仕留めた鉤爪でとどめを刺す。
「血流暴走! 死不鬼、力を借りる。思う存分血を飲むといい。スイ! 打て!」
吹雪の中で赤羽の妖刀が赤黒く発光した。
妖刀から放たれた斬撃が龍の隻腕と衝突。
刹那、赤羽の叫びを合図に背後の木陰から弓を構えた水色髪の少女が現れた。
「流星水矢・七連」
地を這う七つの矢が一直線に飛んでくる。
敵が赤羽だけだと思い込んで完全に挟まれてしまった。
振り下ろしていた腕とは逆の手を背後に向ける。
「漆黒の影が覆う世界」
異能力の同時発動。
脳内で同時処理を行い、注意を前後で均等に割く。
放たれた七つの矢は影の壁に吸い込まれ、矢を放った少女は迷うことなく全力で間合いを詰めてきていた。
そうこうしている間に妖刀の斬撃が『零龍の隻腕』を断ち切り、白い湯気を発した赤羽が前傾姿勢で突撃してくる。
オレと距離が近いのは赤羽。
それなら優先すべきは妖刀持ちの赤羽だ。
再び蒼蛇剣を鞘から抜き、地面を蹴る。
「水晶の双玉竜ッ!」
対処困難な間を狙った詰ませにきた一手。
後方に出現した2体の水竜。
足を止めることができないこのタイミングを狙われた。
2体の水竜がオレを飲み込もうと口を開き、地面を抉りながら加速する。
オレは正面の赤羽に狙いを定め、魔剣を頭上に掲げながら妖刀に両断されて崩れ落ちた『零龍の隻腕』に一瞬意識を向けた。
「零蛇の双牙ッ!」
巨大な氷の塊が2匹の蛇へと姿を変え、オレと赤羽の左右を通り抜ける。
獲物を咬み殺す鋭い牙を覗かせ、迫り来る水竜と衝突した。
それと同時に赤羽の妖刀とオレの魔剣が激突する。
凄まじい衝撃波が周囲の冷気を吹き飛ばした。
「両者そこまでだ!」
モヤが晴れるように周囲の木々が透き通るように消えていき、白髪の男が姿を見せた。
「木曽さん、いいんですか?」
赤羽が妖刀を下ろし、白髪の男——木曽に問い掛ける。
「潮も翠もギアを上げる前とはいえ、2人の猛攻を防ぎ切ったことに変わりはない。及第点に達していると見ていいだろう。えっと、神楽坂春斗だったな。梅さんに会いに来たんだろ? ついて来い」
この状況もそうだが、聞きたいことが山ほどあったが、オレは木曽に言われるがままモヤが晴れた先に出現した屋敷に向かって歩くのだった。



